開業して最も戸惑うことといえば、勤務医の時代には
縁のなかった人事労務管理です。
特に、懲戒解雇を含めた解雇については、対応を
一歩誤ると訴訟トラブルとなり、金銭的にも
時間的にも労力的にも非常に大きな負担となります。
今回はクリニック経営者の方に向けて、
そもそも解雇とは何かについて簡単に説明するとともに、
解雇が有効とされるために押さえておきたい
3つのポイントを解説します。
解雇案件は正しい知識がないと大きなトラブルの元になります。
この記事で基本を見直していただければと思います。
もくじ 解雇とは? 解雇の種類 ・普通解雇とは? ・整理解雇とは? ・懲戒解雇とは? 解雇が有効とされるために押さえておきたい3つのポイント ・就業規則に「解雇の対象となる行為」や「懲戒処分の内容」を明示しておく ・解雇する場合は事前の予告が必要である ・解雇の妥当性についての立証責任は経営者側にある まとめ:解雇の判断は慎重にすべき |
解雇とは?
解雇とは、
「使用者からの申し出による一方的な労働契約の終了*1」
のことをいいます。
解雇については労働契約法第16条(解雇)に規定
されており、使用者側がいつでも自由に行えるもの
ではなく、客観的に合理的な理由が必要となります。
解雇の種類
解雇には、普通解雇、整理解雇、そして懲戒解雇の
3種類があります。
以下では、それぞれの解雇についての概略を簡単に説明いたします。
普通解雇とは?
普通解雇は、次に述べる整理解雇や懲戒解雇以外の
解雇のことを指します。
勤務成績の著しい不良、健康問題など、従業員側が
労働契約に基づく義務を履行できない何らかの
事情があり、労働契約の継続が困難である時に行われます。
法律的には、民法627条1項に基づく労働契約の
解約の申し入れと扱われます。
整理解雇とは?
整理解雇は、不況や経営不振など使用者側の
理由で人員削減を行うための解雇です。
従業員側には落ち度がないため、整理解雇が
認められる要件は厳しく、具体的には
次の4点を満たす必要があります*2。
① 整理解雇することに客観的な必要があること
② 解雇を回避するために最大限の努力を行ったこと
③ 解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
④ 労使間で十分に協議を行ったこと
懲戒解雇とは?
懲戒解雇とは、会社内の秩序を乱したことに対する
制裁罰(懲戒処分)として行われる解雇です。
懲戒解雇の場合は労働契約法第16条(解雇)に
加え、同法第15条(懲戒)が適用となります*3。
懲戒解雇を検討せざるを得ないケースとしては、
法に触れる犯罪行為を行った場合はもちろんのこと、
経歴の重大な詐称(業務に必須の免許や資格を
有していないなど)や長期間の無断欠勤など、
従業員の素行が極めて悪く、再三の指導によっても
改善の余地がないなどの場合があります。
解雇が有効とされるために押さえておきたい3つのポイント
解雇は従業員の生活の糧を直接奪う重大な処分
のため、解雇を行うためには正当な理由が必要です。
法律では解雇が有効となる要件を厳しく定めています。
ここでは、従業員の解雇処分が有効とされるために
重要な点を3つお伝えいたします。
就業規則に「解雇の対象となる行為」や「懲戒処分の内容」を明示しておく
解雇が有効とされるためには、解雇の対象となる
行為(解雇事由)、
また懲戒解雇については懲戒の対象となる行為の
内容(懲戒事由)と懲戒処分の内容(懲戒罰)が
就業規則と労働契約書(労働条件通知書)に記載
されている必要があります。
これらの記載がない場合は、解雇権の濫用として
解雇は無効となります。
また、就業規則や労働契約書に解雇や懲戒処分に
ついての記載があったとしても、
「客観的に合理的な理由があり、社会通念上
相当である(労働契約法第16条)」
と認められなければ解雇は無効となります*2ので、
就業規則を作成する際にはご注意下さい。
具体的には、行った行為の内容に対して処分の内容が
重すぎる場合、また勤務態度は真面目であり反省が
見られる場合など、解雇や処分を行う相当性がないと
判断された場合には、解雇が無効とされることが多いです。
解雇する場合は事前の予告が必要である
解雇の手続きについて定めた
労働基準法第20条(解雇の予告)によると、従業員を
解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前
に解雇の予告をするか、解雇予告手当として
30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
これは普通解雇・整理解雇・懲戒解雇を問わず有効な規定となっています。
解雇の妥当性についての立証責任は経営者側にある
解雇は、従業員の身分を奪う極めて重い処分です。
従業員側としては、解雇されれば収入を絶たれる
こととなり、生きていく基盤が失われます。
特に懲戒解雇については今後の再就職の大きな妨げ
となることから、労働審判や裁判を起こされるケースが
後を経ちません。
裁判を起こされた場合、解雇処分が妥当であることの
立証責任は使用者(経営者)側にあります*4ので、
解雇を行う際には、解雇処分に相当すると考えられた
従業員の行為、処分の内容についてクリニック内で
検討した結果など、解雇処分に至った経緯を
きちんと記録に残しておきましょう。
まとめ:解雇の判断は慎重にすべき
以上、解雇についての基礎知識を簡単にまとめると
ともに、懲戒解雇を行うにあたり気をつけたい
ポイントをまとめました。
解雇処分は、実際に解雇される従業員はもちろん
のこと、決断する経営者側としても非常に重たい処分です。
残った従業員にとっても、解雇の経緯に不透明さが
あれば、経営側への不信感が芽生えるきっかけとなります。
解雇処分は、従業員に問題となる行為について指摘し、
それらについて改善を求めても全く改善が見られない
場合の最後の手段とお考えください。
残った従業員との良好な関係性を保つためにも、
また裁判などの無用なトラブルを避けるためにも、
解雇を検討する際には、ぜひ一度専門家である
弁護士と相談しましょう。
医師 M.M.
*1 厚生労働省 労働契約の終了に関するルール
*2 厚生労働省 しっかりマスター労働基準法 解雇編
*3 厚生労働省 [31]懲戒解雇の有効性
*4 厚生労働省鹿児島労働局 Q8 このたび労働者を就業規則の規定に基づき懲戒解雇にしようと思っています。解雇予告は必要でしょうか。
【参考】
弁護士法人咲くやこの花法律事務所 企業法務の法律相談サービス 懲戒解雇についての会社側のデメリット3つ【事前確認必須】
弁護士による労働問題総合サイト 解雇の種類(普通解雇・懲戒解雇・整理解雇など)
労働問題.com 【経営者必見】普通解雇の4つの有効要件
確かめよう労働条件 6-2 「懲戒」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性
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