改めて確認したい「就業規則」とその重要性

クリニックを開業するにあたり、就業規則の制定は
とても重要なことの一つです。

ところが開業時には、資金繰りやスタッフの
雇用など、切羽詰まってやらなければならない
ことが非常にたくさんあるため就業規則までは
手が回らず、厚生労働省などが作成した
モデル就業規則をそのまま自院の就業規則
として届け出ている場合も少なくありません。

また継承開業の場合、継承前のクリニックで
使用していた就業規則をそのまま使用するケースも散見されます。

自院の実態に合っていない
就業規則を使い続けることは労務及び
経営上のリスクになるだけではなく、
労働紛争が起きた際には自院にとって
不利な証拠物となる可能性すらあるのです。

今回は、そもそも就業規則とは何かを簡単に
まとめるとともに、自院に合っていない
就業規則を使い続けた場合に起こるリスクについて解説いたします。

そもそも就業規則とは何か

就業規則とは、厚生労働省によると
「労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、
職場内の規律などについて定めた職場における規則集」

のことです。

あらかじめ職場でのルールを定めておき、
労働者・使用者の双方がお互いにそのルール
を守ることで、労働者は安心して働くことが
できるとともに、使用者側としては労使間の
トラブルをある程度未然に防ぐことが可能です。

就業規則が必要な事業場とは

労働基準法第89条には、
「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、
次に掲げる事項について就業規則を作成し、
行政官庁に届け出なければならない。(以下略))」

という規定があります。

裏を返せば、常時雇用している労働者が
九人以下の小規模クリニックには、
就業規則を作成する法的義務はありません。

しかしながら就業規則を定めておかないと、
労働者と揉め事が起こるたびに決まりを考え、
また労働者と個別で交渉しなければならず、
膨大な時間と労力がかかります。

したがって、労働者を一人でも雇っている
すべての事業場において、就業規則は
使用者側の安全のためにもなくてはならないものなのです。

就業規則に書かなくてはいけない内容とは

引用:J-Net21 経営課題を解決する羅針盤 ビジネスQ&A 就業規則の作り方について教えてください。
https://j-net21.smrj.go.jp/qa/hr/Q0174.html

就業規則に書く内容は、労働基準法第89条に定められています。

具体的には、必ず記載しなければならない
事項(絶対的記載事項)と、
当該事業場で定めをする場合に記載
しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります。

絶対的記載事項としては、勤務時間、休憩、
休日、休暇、賃金、退職に関することがあります。

相対的必要記載事項には、クリニックで独自に
定めているもの(退職手当、賞与等の
臨時の賃金、安全及び衛生等)があれば、
それらを記載しなければなりません。

詳しくは、上の表をご参照ください

自院に合っていない就業規則を使い続けることのリスク

自院に合っていない就業規則を使い続ける
リスクは労使関係におけるリスクだけはありません。

ここでは、就業規則によって起こるリスクを簡単に解説いたします。

法令違反のリスク

継承開業でそのまま流用している
就業規則はもちろんのこと、ネットなどで
公開されている就業規則についても、
作成された時期が古い場合は最新の
法令に準拠しておらず、知らないうちに
法令違反となっているケースが後を立ちません。

労働基準法第92条には
「就業規則は、法令又は当該事業場について
適用される労働協約に反してはならない。」

との定めがあるため、最新の法律に対応
するようアップデートされていない就業規則は、
それだけで法律違反となるのです。

労働契約に関するリスク

就業規則における決まりとして、
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を
定める労働契約は、その部分については、無効とする。
この場合において、無効となった部分は、
就業規則で定める基準による。」

というものがあります(労働契約法第12条)。

この決まりは「最低基準効」と呼ばれています。

つまり労働者側から見ると、就業規則と
雇用契約が異なる労働条件の基準を定めている場合には、

・就業規則より不利な条件の雇用契約→就業規則の基準
・就業規則より有利な条件の雇用契約→雇用契約の基準

と、より有利な基準で労働契約を結ぶことができるのです。

したがって、継承前のクリニックが就業規則に
あなたのクリニックよりも良い労働条件を
規定していた場合、労働者からの指摘が
あれば、継承前の条件で雇用を続けることとなってしまうのです。

ちなみに、後から就業規則を変えて雇用条件
を変えるということは困難です。

労働者側から見ると雇用条件の不利益変更
に当たるため、非常に厳しい要件が課されているのです。

「とりあえず就業規則は適当に作っておいて、
後から変更すればいいかな」
などと軽く考えた結果、後で自分の
思い通りに変更できないことに気が付く
ケースが多いので、ご注意ください。

院内の規律を守れないリスク

就業規則に記載する内容は、労働条件だけではありません。

使用者側として、労働者に守ってほしい
「服務規律」も記載することになっています。

例えば従業員がクリニックに相応しくない
言動をした、犯罪を起こして逮捕されたなど、
懲戒処分を検討したい場合でも、就業規則
がないと懲戒処分を行うことができないのです。

そうなると院内の秩序を維持することが
できず、クリニックとしての存立の危機に
立たされる可能性も否定できません。

まとめ

以上、就業規則についての基本をまとめる
とともに、就業規則が自社に合っていない
場合のリスクについて解説いたしました。

時代遅れの就業規則を放置しておくと、
知らないうちに法令違反となるばかりか、
労使トラブルの際にも自院に不利な証拠として扱われます。

働き方改革の影響などで頻繁に法令の
改正がある時代ですので、就業規則も
自院の実情に合わせて適切にアップデートしておきましょう。

医師 M.M.

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