その研修、賃金が必要かも?労働時間の正しい計算方法

医療業界の慣行は一般の企業と大きく異なることが多いです。
特に労働時間については一般企業とは
一部異なった管理が常識となっており、
知らないうちに違法な状態となっていることも少なくありません。

スタッフの離職を防ぎ、
質の良い職場環境を維持するためにも、
法律に則った適切な労働時間の管理が重要です。

今回は、厚生労働省が出している
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
のうち、労働時間の正確な定義と、
実際に労働時間に当たるもの当たらないものを具体的に例示します。

「労働時間」の正確な定義

ガイドラインによると、「労働時間」とは、
「使用者の指揮命令下に置かれている時間」
のことを言います。
「使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」
とガイドラインに明記されており、
明示の指示はもちろんのこと、
これまでは暗黙の了解で行われていた
業務前の準備や研修なども、
労働時間に当たる可能性が高いです。

ガイドライン上、労働時間に当たるものとして例示された項目

ガイドラインには、以下の項目について
労働時間に当たるものと例示されています。
 以下「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」より引用

  • 使用者の指示により、就業を命じられた
    業務に必要な準備行為
    (着用を義務付けられた所定の服装への
    着替え等)や業務終了後の業務に関連した
    後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
  • 使用者の指示があった場合には即時に
    業務に従事することを求められており、
    労働から離れることが保障されていない
    状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
  • 参加することが業務上義務づけられている
    研修・教育訓練の受講や、使用者の
    指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

労働時間に当たるもの

労働時間に当たるものの具体例をお示しします。

朝礼やミーティング

  • 始業前の朝礼
  • 連絡事項の伝達や申し送り
  • 準備体操
  • 終業後、業務の振り返りミーティング

これらはすべて労働時間に含まれるものとご理解ください。
形式的には自由参加となっていても、
そこに参加しないと業務に支障が出る場合は
すべて労働時間の扱いとなります。

始業前の準備、終業後の後片付け

特に看護師さんに多いのが、
始業の30分から1時間ほど前に出勤し、
その日の受け持ち患者さんの情報を
事前に取得する前残業です。
これらは業務に必要なものとみなされ、
労働時間とみなされます。

またカルテ記載が終業時間までに
終わらなかった場合も労働時間に含まれます。

レセプトチェックを自宅で行っている場合

スタッフにレセプト手当を支給し、
自宅でレセプトチェックをお願いしている
クリニックも多いと思います。

この場合、クリニックがレセプトチェックを
指示したものであれば、自宅で作業した分も
労働時間として扱われます。
実際に作業した労働時間分の賃金よりも
レセプト手当てが少ない場合は、法律違反となります。

診療時間外のスタッフ教育

クリニックの売り上げを上げる要素として、
高い医療技術が挙げられます。
そのためには医療職、非医療職問わず、
スタッフの質を高めることが重要です。

とはいっても、診療時間内に
研修を組むような時間的余裕はないことがほとんどです。
そのため、大半のクリニックは
研修や講習などのスタッフ教育を
時間外に行っていることと思います。
また、時間外や休日に先輩の業務を見学に来ることもあるでしょう。

医療業界にとって自分の技術を上げるために
時間を費やすことは必須であり、
時間外の研修は自己研鑽であるとして、
賃金を支払っていないケースが多く見受けられます。
ところが労働基準法に照らすと、これは違法となります。

研修などを「自主参加」「自主研修」と
銘打っていても、そのスタッフ教育を
受講しなければ業務に支障が出る場合、
参加しなければ不利益な扱いが生じる場合、
後日レポートの提出が必要な場合などは、
「使用者の指示」のもとにあるとみなされ、
労働時間に当たります。

また「どうして参加しないの?」などと
使用者から何度も問いかけがある場合、
制服での参加が必要な場合などは、
「使用者による黙示の指示」があるとみなされます。

労働時間に当たらないもの

逆に、労働時間に当たらないものの具体例を示します。

一見労働時間に当たるようにも見えますが、
これらは労働時間としてカウントする必要はありません。

指示していないのに勝手に持ち帰った仕事分

労働時間に当たるレセプトチェックと異なり
指示していないのにスタッフが自主的に
持ち帰った仕事については
労働時間に当たらず、賃金を支払う必要はありません。

ただし本来はクリニックで終わらせるべき
仕事ですので、自宅で作業していることを
知っていながら指摘をしなかった場合、
また時間内に到底終わらないような仕事量が
常態化していた場合は労働時間に参入されることがあります。

業務とは関係のない早出

始業時間よりかなり前に出勤していても、
たとえば通勤ラッシュを避けるために
自主的に早く出勤しているような場合は
業務に必要な準備をしていないため、
労働時間に含める必要はありません。

従業員の自主研修

時間外の研修でも、スタッフから施設使用の
申し出があり使用者が許可しただけなど、
使用者が関わっていない研修は労働時間に当たりません。

また終業後に行われる自由参加の研修会で、
参加の強制もなく、参加しなくても不利益な
扱いを受けないものは労働時間に当たらないとされています。

まとめ

以上、労働時間の正しい計算方法について、
労働時間に当たるもの当たらないものを
それぞれ例示してお示ししました。

同じように見える時間の使い方でも、
また明確に指示を出していない場合でも、
使用者の黙示の指示があれば
労働時間とみなされてしまいます。

正確な知識を身につけ、
クリニックの適正な運営を目指しましょう。

医師 M.M.

【参考元】

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