職場におけるパワーハラスメントの基礎知識とパワハラ防止法

厚生労働省が行った「職場のハラスメントに関する
実態調査」の令和2年度報告書によると、
過去3年間にパワハラを1度以上経験したと答えた
「医療、福祉」に従事する労働者の割合は35.5%と
高くなっています。

ハラスメントは従業員の退職にも繋がりかねない重要な
案件であるとともに、労使トラブルや訴訟の原因ともなり得ます。

2020年6月1日より、職場におけるパワーハラスメント
の防止などを目的とした法律(改正労働施策総合
推進法、通称「パワハラ防止法」)が施行され、
職場のパワーハラスメント防止措置が企業の義務と
されました。

実施が猶予されていた中小企業についても、
2022年4月からは同法の対象となっています。

今回は、厚生労働省から発せられた資料をもとに、
職場におけるパワーハラスメントについての
基礎知識を簡単にまとめました。

さらに通称「パワハラ防止法」の要点についても解説します。

【引用】*2厚生労働省 2020年(令和2年)6月1日より、職場における ハラスメント防止対策が強化されました!
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000683138.pdf

職場におけるパワハラの定義は、
〜〜〜
職場において行われる
1 優越的な関係を背景とした言動であって、
2 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
3 労働者の就業環境が害されるもの
であり、1から3までの3つの要素を全て満たすもの*1
〜〜〜*3より引用

となっています。具体的な内容については、上の表をご参照下さい。

【引用】*4厚生労働省 パワーハラスメント防止措置が中小企業の事業主にも義務化されます。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000855268.pdf

職場におけるパワハラの事例として、厚生労働省は
以下の6つを典型例として整理しています。

〜〜〜
1)身体的な攻撃:暴行・傷害
2)精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3)人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
4)過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5)過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
6)個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
〜〜〜*4より引用

それぞれの類型についての代表的な言動は、
上の図表をご参照ください。

もちろん、この類型に当てはまらないハラスメントも
たくさん存在します。
また同じような言動を取った場合でも、その目的や
その時の状況や経緯によって、ハラスメントに
なる場合とならない場合があります。

自分では「このくらいは大丈夫」と思って発言したものが、
受け手の従業員にとっては重大なハラスメントであると
感じることもあり、日頃から言動には注意を払う必要があります。

ただし、従業員が「パワハラである」と感じたら、全てが
パワハラとして認定されるというわけではありません。

従業員の中には普通に注意をしただけで
「パワハラを受けた」と訴える人もいますが、客観的に
みて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な
業務指示や指導はパワハラには該当しませんのでご安心ください。

パワハラ防止法の要点

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)では、
パワハラの定義およびパワハラ防止措置の義務化、
そしてパワハラについて相談した従業員に対する
不利益な取り扱いの禁止について定めています
(労働施策総合推進法第32条第1項および第2項)

パワハラ防止法において事業者に定められた4つの義務

パワハラ防止法において事業者に定められた4つの義務

【引用】*2厚生労働省 2020年(令和2年)6月1日より、職場における ハラスメント防止対策が強化されました!
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000683138.pdf

パワハラ防止法においては、事業者に以下の4つに
ついての義務を定めています。

1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
2.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
4.合わせて講ずべき措置:相談者・行為者等のプライバシーを保護し、その旨を労働者に対して周知すること、パワハラを相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止および周知・啓発

パワハラ防止法には罰則はないが、勧告・指導・事業者名の公表はある

パワハラ防止法には罰則はありません。

「実効性がないのでは?」と疑問視する声もありますが、
厚生労働省が必要と認めた場合には、助言、指導
または勧告の対象となります(労働施策総合推進法第33条第1項)。

また、勧告に従わなかった場合は企業名を公表する
ことができます(労働施策総合推進法第33条第2項)。

パワハラを行った上に勧告にも従わなかった企業として
名前を公表されてしまうことは、企業としての信頼性を大きく損なうこととなります。

また、そもそも事業主には「安全配慮義務」があること
を忘れてはなりません。

パワハラ防止法に罰則がないからといって
「パワハラの実態を知っていたが放置していた」と
訴えられた場合には、民法上の不法行為責任
(民法709、715条)が認められる可能性があるのでご注意ください。

まとめ

以上、職場におけるパワーハラスメントについて
基本的な事項を簡単にまとめるとともに、
通称「パワハラ防止法」の要点についても解説しました。

ご自身の身を守るためにも、法的義務を守るためにも、
そして従業員に気持ちよく働いてもらうためにも、
ハラスメントのない職場環境づくりを目指しましょう。

医師 M.M.

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