ALT>30をかかりつけ医受診の目安に、日本肝臓学会の奈良宣言

「ALT>30で、かかりつけ医を受診しましょう」
日本肝臓学会は2023年6月、
肝疾患の早期発見、早期治療のため、
一般の方を対象に「奈良宣言」を発出しました。

奈良宣言とはどのようなものか、心掛けておくべきポイントを解説します。

進行してからの受診例が少なくない肝疾患

ウイルス性肝炎の治療は劇的に進歩し、患者数も減少しました。

しかし、肝硬変や肝臓がんまで進行してから
発見されるケースは現在も少なくありません。
ウイルス性肝炎とは逆に、肝硬変や
肝臓がんのリスクとなる脂肪肝(NASH
[非アルコール性脂肪肝炎]やアルコール性肝疾患)の患者は増加しています。

特に、肥満、糖尿病などを背景とする
NASHの患者数は約200万人、
炎症を伴わないNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)
も含めると、1,000万人以上と推定されており、社会的にも注目度の高い疾患です。

こういった状況に対し、日本肝臓学会は
奈良で行われた学会総会において、
ALT>30IU/Lをかかりつけ医受診のきっかけ
にし、肝疾患早期発見早期治療における、
かかりつけ医と専門医の診療連携を促進する奈良宣言を発出しました。

肝硬変も肝臓がんも脂肪肝の関与が増えている

わが国の肝臓がん、肝硬変の原因として、
以前はウイルス性肝炎がほとんどでしたが、
現在その割合は減少しています。

一方、患者数の増加とともに、脂肪肝を
原因とした肝硬変や肝臓がんの割合は年々増加傾向です。

特に肝硬変は、令和4年の調査で4分の1以上
は脂肪肝が原因という結果が出ています。

厳密に決まっていなかったALTの基準値を30に

ALTは肝臓への特異性が高い指標ですが、
その基準値は厳密には決まっていませんでした。

実際に、わが国の大学附属病院78施設を
対象とした平成27年の調査では、
ALT基準値は25から48IU/Lまで、と大きな差がありました。

「ALT>30」を目安とする根拠および利点
として、日本肝臓学会は下記の項目をあげています。

・シンプルで健診や一般診療で汎用されている項目である
・英文も含めて基準値に関する文献が多数ある
・わが国の定期健診および人間ドック学会の基準値は ALT30 以下
・特定健診や人間ドック学会の基準値は日本消化器病学会肝機能研究班意見書に基づいて決定されている

令和2年に発表された大規模疫学研究でも、
NAFLD患者のALT平均値は40.7UI/L、
非飲酒・脂肪肝なし集団では20.9UL/で、
統計学的にもNAFLD患者でALT≧30IU/L の割合が高いと示されています。

かかりつけ医の役割

この奈良宣言発出にあたり、かかりつけ医としてはどのようなことをすべきでしょうか。

奈良宣言では、
かかりつけ医は、健診などでALT>30と
なって受診した方に対し、ウイルス性肝炎、
脂肪肝、アルコール性肝炎の疑いなどを
評価し、必要であれば消化器内科へコンサルテーションするよう推奨しています。

肝臓に特異的な指標であるALT値と
それ以外のリスク因子を合わせて評価するという手順です。

肝臓の機能を意識して日常診療を

日本肝臓学会は、奈良宣言を一般大衆に
啓発しており、患者からの質問も予想されます。

さらに、対象となるALT>30は、健康成人
でも15%程度いるので、かかりつけ医が遭遇する機会も高いと考えられます。

奈良宣言の意図と内容をご理解いただき、さらに
日常診療でも肝臓の機能について再度意識することで
肝疾患の早期発見・早期治療に繋げることができるのではないでしょうか。

薬剤師 M.H

参考:奈良宣言特設サイト

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