動脈硬化性疾患予防ガイドライン5年ぶり改訂、糖尿病など近年の日本の問題をカバー

日本人の動脈硬化性疾患の最新研究を反映
したガイドラインが、5年振りに改訂されました。

重要な変更点であるトリグリセライド
(以下TG)、糖尿病患者の扱い、
アテローム性血栓性脳梗塞に焦点を当てて紹介します。

もくじ
動脈硬化性疾患のリスクにさらされている日本人
管理基準に随時TGが加わる
糖尿病では一部の高リスク例の管理基準をさらに厳しく
1次予防のリスク評価スコアを、より日本人のリスクにあったものに一新


2次予防におけるアテローム性脳梗塞の重要性が見直される
■2次予防の対象にアテローム血栓性脳梗塞が追加される
■2次予防の中でも、さらに厳格な管理が必要な「高リスク病態」にも追加される
ガイドラインを活用して動脈硬化性疾患を管理、臨床現場で「使える」アプリも

動脈硬化性疾患のリスクにさらされている日本人

冠動脈疾患、脳血管疾患に代表される
動脈硬化性疾患は、日本人の総死亡の
23%を占めています。

この割合はがんに匹敵します。

その重要性から、2018年には
「脳卒中・循環器病対策」が交付されました。

動脈硬化性疾患発症予防に脂質異常の
管理は欠かせません。

しかし、わが国の脂質管理は良好とは
いえず、2019年の国民健康・栄養調査では、
血清総コレステロール値が 240mg/dL 以上
の割合が男性12.9%、女性22.4%と報告されています。

そして、その割合は年々増えているのです。

管理基準に随時TGが加わる

TGは、食事による影響を受けやすいため、
以前のガイドラインでは空腹時TG値のみが
管理対象でした。

その後、食後(随時)TGの高さも、
虚血性心血管疾患や心血管死の増加に影響
することが明らかになり、新たに基準値に加わりました。

糖尿病では一部の高リスク例の管理基準をさらに厳しく

糖尿病があると、脂質異常による血管障害
のリスクが非常に高くなります。

2017年版ガイドラインでは、1次予防
(動脈硬化性疾患の既往がないケース)の
糖尿病患者におけるLDL-C管理目標は一律120mg/dLでした。

今版ではリスクの高い疾患
(末梢血管疾患、細小血管疾患[網膜症、腎症、神経障害])
を合併したケース、
または喫煙ありのケースでは、さらに
脂質管理を強化し、LDL-C管理目標は100mg/dL未満としています。

欧州のガイドラインでは、2型糖尿病患者の
LDL-C管理目標は100mg/dL、高リスク患者では70mg/dLです。

日本人の糖尿病においても、
イベントリスクが高い疾患の合併例、
喫煙例では、100mg/dL未満にLDL-Cを抑制
することがイベント抑制に有用だと報告されています。

糖尿病患者についての改訂は、海外も
含めた最近の研究結果を反映したものと言えるでしょう。

1次予防のリスク評価スコアを、より日本人のリスクにあったものに一新

1次予防では、リスクを低・中・高に分け、
各リスクに合わせた脂質管理目標が設定されています。

糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患の
いずれかがあれば、高リスクに分類され、
これらがない場合は、評価スコアを使って各リスクに分類します。

このリスク分類には「吹田スコア」が利用
されていましたが、今回の改訂では
「久山町研究スコア」に変更されました。

久山町研究スコアは、吹田スコアに
無かった脳梗塞のリスクを評価しています。

また、同スコアになったことで、性別・
血圧・脂質など日常診療で入手できる
項目でのリスク評価が可能になりました。

1次予防の管理基準は以下の通りです(単位mg/dL)。

LDL-C

低リスク

160未満

中リスク

140未満

高リスク

120未満

高リスク糖尿病患者

100未満

Non-HDL-C

低リスク

190未満

中リスク

170未満

高リスク

150未満

高リスク糖尿病患者

130未満

TG (リスク問わず)空腹時150未満、随時175未満
HDL-C (リスク問わず)40未満

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 リスク区分別脂質管理目標値より

2次予防におけるアテローム性脳梗塞の重要性が見直される

■2次予防の対象にアテローム血栓性脳梗塞が追加される

2次予防(動脈硬化性疾患の既往がある
ケース)の対象疾患は、以前ガイドライン
では冠動脈疾患だけでした。

今回の改訂では、アテローム血栓性脳梗塞
が対象に追加されています。

以前から、日本人は欧米人に比べ脳梗塞の
割合が多いことは明らかにされていました。

近年、その脳梗塞の中でも、アテローム性
血栓性脳梗塞の割合が増加しています。

この基本病態であるアテローム硬化は、
さまざま動脈硬化性疾患の原因としても注目されています。

■2次予防の中でも、さらに厳格な管理が必要な「高リスク病態」にも追加される

ガイドラインでは、2次予防の中でも
さらに厳格な管理が必要となる
「高リスク病態」が定義されています。

以前の高リスク病態は、急性冠症候群・
家族性高コレステロール血症・糖尿病
でしたが、
今回、冠動脈疾患とアテローム性脳梗塞の合併が加わりました。

2次予防の管理基準は以下の通りです(単位mg/dL)。

LDL-C 100未満 高リスク病態70未満
Non-HDL-C 130未満 高リスク病態100未満
TG、HDL-C 1次予防と同様 


動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 リスク区分別脂質管理目標値より

ガイドラインを活用して動脈硬化性疾患を管理、臨床現場で「使える」アプリも

動脈硬化性疾患の予防、治療は
かかりつけ医の重要な責務です。

とはいえ、多忙な診療時間にガイドライン
を活用するのは簡単ではないでしょう。

今回の改訂では、合併症や数値を入れる
だけで、患者さんに合わせた管理目標値が
現れるアプリも同時に開発されています。

最新の動脈硬化性疾患の予防・治療を
取り入れたガイドラインを有効活用し、
「選ばれ続けるかかりつけ医」を目指していただければと思います。

薬剤師 (M.H)

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