
近年、血液検体を用いた「生化学検査」を
院内で実施するクリニックが増えています。
従来の「生化学検査」は、
院内で簡単に使用でき、
正確な検査結果が得られる分析装置が
少ないなどの理由で、
専用の分析装置がある外部の検査機関へ
委託することが一般的でした。
しかし最近では、POCT
(臨床現場即時検査)の普及により、
診療中に正確な検査結果を
簡単に得られる環境が整いつつあります。
今回は、こうした院内での
「生化学検査」がもたらすメリットと
導入時の注意点について、
実例を交えてご紹介します。
クリニックでの生化学検査導入が注目される理由
医療現場では、迅速な診断と治療の提供が
患者さんの満足度や医療の質に直結します。
また、慢性疾患の患者さんに対しては、
治療経過がその場で確認できると、
治療のフォローが即時に行えます。
そのため、診療中に結果が得られる
POCT(臨床現場即時検査)の活用が進み、
クリニックでも生化学検査を院内で行うケースが増えています。
外部委託では結果判明までに時間がかかり
診療にタイムラグが生じていましたが、
院内で検査をすることで
その課題が大きく改善しました。
迅速性・利便性・柔軟性の高さから、
クリニックにおける生化学検査の導入は
今後さらに拡大していくと見込まれています。
クリニックで生化学検査を実施する4つのメリット
生化学検査をクリニックで行うメリットについて4つご紹介します。
1. 診断の迅速化と適切な治療の提供
外部の検査機関に依頼すると、
当日中に結果が得られないことがあります。
しかし、POCTの導入により、
診療中に検査結果を確認し、
その場で治療方針を決定することができます。
ある内科クリニックでは、
POCTを導入したことで、
糖尿病患者さんの血糖の状況を
即座に正確に把握できるようになりました。
これにより、生活習慣の振り返りや、
食事や運動のアドバイスを、
受診したその日に提供できるようになり、
患者さんから好評を得ています。
特に、生化学検査の項目のうち、
肝機能・腎機能・脂質・血糖などは、
高血圧症・糖尿病・脂質異常症といった
慢性疾患の患者さんの治療経過の把握に不可欠です。
定期的な検査をその場で実施し、
すぐに結果を反映できることで、
適切な治療の管理にもつながります。
2. 患者さんの利便性向上と満足度アップ
前述したとおり、
検査結果を即時に確認でき、
治療方針や治療の経過などを
その日のうちに患者さんに伝えることができます。
これにより、患者さんの不安が
軽減されるだけでなく、
「検査結果待ち」のための再来院の負担も減少します。
1度の来院で診察・検査・治療の判断が
完了することは患者さんにとって大きなメリットです。
特に、忙しい社会人や子育て世代、
付き添いの必要な高齢患者さんにとって、
何度も通院する手間が省けるのは
大きなメリットとなるでしょう。
3. 診療の質向上と医師の判断の迅速化
POCTでの検査結果をもとに、
医師がその場で診断できるため、
より精度の高い診療が可能になります。
従来よりも早く診断できることで、
重症化を防ぐ効果も期待されています。
ある診療所では、POCTの導入により
BNP の迅速検査が行えるようになりました。
心不全のスクリーニングが
即日可能となったことで、
迅速かつ的確な対応ができ、
多くの患者さんの命を救うことにつながっています。
循環器を標榜するクリニックでは、
急性疾患の早期対応ができるよう、
POCTが積極的に導入されています。
心不全や心筋梗塞、狭心症など、
循環器疾患の急性発作時に電解質(Na, K, Cl)、
腎機能、肝機能、血糖などの
生化学データが即時に得られるため、
迅速な診断・初期治療の意思決定につながります。
4. 微量採血での検査が可能に
検査項目は限られますが、
通常の採血が困難な患者さんに対し、
微量採血での検査が可能なPOCTがあります。
小児や高齢患者さんに対しても、
負担が少なくなります。
また、指先から数十μL 程度の
少量の血液で検査可能なPOCTも増えてきました。
あるクリニックでは、
POCTの導入により、微量採血による
HbA1cの検査が可能になったことで、
採血にかかる時間や人員を削減し、
患者さんの苦痛も軽減できています。
クリニックで生化学検査を導入する際の注意点
生化学検査のPOCTを導入する際、
以下の2つに注意して検討する必要があります。
1. 機器導入・維持のコストがかかる
POCT機器の購入や試薬のコスト、
定期的なメンテナンス費用がかかるため、
費用負担が大きくなる場合があります。
対策として、
検査機器は、各メーカーなどが実施する
キャンペーン(導入割引や下取値引)を
積極的に利用することで、
初期導入費を抑えることができます。
また、検査機器の導入時にセットで
定期メンテナンスを契約することで、
メンテナンス費用の削減や
検査機器のトラブルで検査が止まることを
予防することにつながります。
検査項目においては、
診療上必要な項目に絞った試薬を導入し、
無駄な在庫やコストの発生を防ぐことができます。
さらに、院内で検査を完結できることで
診療の効率化や再診の減少につながり、
長期的にはコストメリットを生むことが期待できます。
2. スタッフの教育・トレーニングが必要
院内で検査を行うには、
スタッフが機器の取り扱いや
検査データの解釈を適切に行えるよう、
教育・トレーニングが必要です。
また、電子カルテなどへの転記ミスや
記録忘れなどを予防するための対策も検討が必要です。
検査機器の選定の際は、
操作するスタッフの意見を取り入れたり、
導入時だけでなく定期的に
研修や勉強会を実施したりすると
よいかもしれません。
また、検査結果のダブルチェックや
検査結果の記載方法・場所・手順を
マニュアル化することで、
データの管理をスタッフで徹底することができます。
最近は、病院だけでなく、クリニックでも
電子カルテの普及が進んでおり、
検査機器を電子カルテと連携することで
転記ミスなどを予防することもできます。
自院に合った生化学検査の導入検討を
院内で生化学検査を実施することで、
診断の迅速化、診療の質の向上、
患者さんの負担軽減・満足度の向上
といったメリットがあります。
一方で、導入コスト、機器管理、
スタッフ教育などの課題もあるため、
導入時には十分な検討が必要です。
クリニックの規模や診療方針に応じて、
最適なPOCTを導入することが、
より良い医療サービスの提供につながるでしょう。
看護師 S.H