毎年、年末になると勤務調整のため
休みを取りたがる従業員はいないでしょうか?
11月頃に突然、
「12月はまるまるお休みを頂きたい」
などと言い出されると、
業務がうまく回らなくなります。
また、他の職員との公平性の問題も生じ、
クリニック経営者にとっては頭の痛い問題です。
医師をしているとなかなか
ピンとこないかもしれませんが、
「年収の壁」問題は、
特に夫の扶養内で働いている
パートタイム従業員にとって
切実な問題なのです。
今回は、「年収の壁」とはそもそも何か、
簡単に説明するとともに、
「年収の壁」がクリニックに与える影響と、
その回避策について具体的に解説します。
「年収の壁」とは何か
「年収の壁」とは、特定の年収を超えると
税金や社会保険料の増加により、
手取り収入が逆に減少する現象を指します。
特に中間所得者層に影響を及ぼし、
労働意欲や所得増加への動機付けに
悪影響を与えることが指摘されています。
「年収の壁」にはいくつかの段階があります。
具体的には以下の5つが挙げられます。
- 100万円超:住民税発生
- 103万円超:所得税発生
- 106万円超(条件によっては130万円超(注)):社会保険料発生
(注)従業員50人超以上の企業に週20時間以上勤務する場合:106万円超
それ以外の場合:130万円超 - 150万円超:配偶者特別控除減少
- 201万円超:配偶者特別控除具適用
社会で特に問題になっているのが、
106万円(もしくは130万円)で発生する
社会保険料発生の「壁」です。
「年収の壁」があることで何が起こるか
「年収の壁」があることで起こるのは、
単に従業員の手取り収入が減るだけではありません。
ここでは、考えられる影響について3つ解説します。
➀従業員の年収調整
年末になると、パートタイム従業員の中には
年収が増えすぎることを避けるために休む人がいます。
これは、社会保険料の増加や税金の追加負担、
夫の扶養から外れることを回避するためです。
②クリニック運営への影響
先述した➀は、クリニックの人員配置や
業務運営に影響を及ぼします。
特に忙しい年末に人手不足が発生すると
患者サービスの質に影響を与える可能性があります。
③従業員のモチベーション
「年収の壁」があることで、
従業員は労働意欲を失い、
仕事に対するモチベーションが低下することがあります。
「年収の壁」による影響を回避するためにできること
「年収の壁」によるクリニックへの悪影響を
回避するために、経営者としてできることを
7つ挙げました。
➀情報提供と教育
従業員に対し、「年収の壁」に関する
正確な情報とその影響を共有し、
理解を深めるための教育を行います。
従業員自身が、働き方をより効果的に計画するのに役立ちます。
②柔軟な勤務計画
従業員が「年収の壁」に直面しないように、
年間を通じての勤務時間を調整することが可能です。
これにより、年末に急激に労働時間を減らす必要がなくなります。
③給与体系の見直し
給与体系を見直すことも一つの方法です。
例えば、ボーナスの分配を調整することで、
年収の総額が一定の基準を超えないように
管理することができます。
④追加的な福利厚生の提供
給与以外の福利厚生を強化することで、
従業員の満足度を高めることが可能です。
例えば、健康支援プログラムや教育支援などが考えられます。
⑤パートタイム従業員のフルタイム転換を検討
パートタイムからフルタイムへの
転換を提案することで、
従業員がより多くの収入を得ることができ、
同時に「年収の壁」問題を回避することが可能です。
⑥税理士や専門家との連携
税理士や給与管理の専門家と協力し、
最適な給与管理プランを立てることが重要です。
これにより、法令を遵守しながら
効果的に従業員の給与を管理することができます。
⑦政府の「年収の壁・支援強化パッケージ」を利用する
人手不足の現在において、
「年収の壁」による就業調整は
大きな社会問題となっています。
そこで政府は、2023年10月より当面の間、
「年収の壁」を超えても
従業員の手取りが減少しないような施策を
実施した企業に対する助成金などを含めた
「支援強化パッケージ」を打ち出しました。
具体的な内容については厚生労働省のホームページをご覧ください。
引用元:厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
結論
「年収の壁」は、クリニック経営者として
従業員の管理における重要な課題です。
この問題を適切に管理するためには、
従業員とのコミュニケーション、
柔軟な勤務計画、給与体系の見直し、
追加的な福利厚生の提供、
そして専門家との連携が鍵となります。
こうした取り組みを通じて、
従業員のモチベーションを維持し、
クリニックの運営を円滑に行うことが可能になります。
本記事で挙げた取り組みの中で
どれが最も適しているかは、
それぞれのクリニックの規模や収益によって異なります。
税理士や社会保険労務士など、
専門家との綿密な打ち合わせを行い、
検討してみてはいかがでしょうか。
医師 M.M.