治療ガイドライン2025から考察|高血圧の処方はどう選ぶべき?

高血圧は、日常診療でもっとも頻繁に遭遇する慢性疾患のひとつです。
脳卒中、心不全、虚血性心疾患、
慢性腎臓病(CKD)など
多くの疾患のリスクとなるため、
適切な血圧管理は患者さんの予後を大きく左右します。

一方で、実臨床では
「とりあえずアムロジピン」
「前医からの処方を継続」
といった“Do処方”になりやすい領域でもあります。

しかし高血圧は、単純に数値だけを
下げればよい疾患ではありません。
年齢、動脈硬化の程度、心機能、
腎機能、糖尿病の有無、生活歴、
浮腫傾向、脈拍などに応じて、
薬剤選択を考えることが重要です。

本記事では、循環器専門ではない
一般開業医の先生方に向けて、
「高血圧治療薬をどう選ぶか」を、
実臨床に合わせて整理します。

高血圧治療薬の種類

高血圧管理・治療ガイドライン2025
(JSH2025)では、
各薬剤のエビデンスや臨床での
位置づけに基づき、降圧薬が
3つのグループ(G1〜G3)に再編されました。

グループ1(G1降圧薬)
単剤で脳心血管病イベント発症抑制についてエビデンスを有する、主要降圧薬です。

  • G1a降圧薬
    長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、RAS阻害薬(ARB、ACE阻害薬)
    →忍容性に優れており、広く用いられます。
  • G1b降圧薬
    少量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬
    →現状、本来投与されるべき病態への使用率が低いため、積極的な投与が望まれる薬剤群です。

グループ2(G2降圧薬)
ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)およびMR拮抗薬が該当します。高血圧における脳心血管病イベント発症抑制の直接的なエビデンスはありませんが、病態に応じて選択されます。

グループ3(G3降圧薬)
α遮断薬、ヒドララジン、中枢性交感神経抑制薬などが含まれ、治療抵抗性高血圧や特殊な病態に対して用いられます。

治療の進め方

実際の降圧薬治療は、
患者さんの血圧レベルや、
降圧目標との差、降圧速度の忍容性、
合併症の有無などを総合的に判断して進めます。
具体的には、以下の3つのステップで治療を強化していきます。

※低・中等リスクのⅠ度高血圧か、高リスクのⅠ度高血圧またはⅡ・Ⅲ度高血圧かの評価

  • STEP1(単剤投与)
    まず、G1降圧薬(Ca拮抗薬、ARB/ACE阻害薬、少量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬)のいずれかを、積極的適応を考慮して単剤で投与します。降圧目標を達成できない場合は、漫然と経過観察せず、できるだけ早期にSTEP 2へ移行します。
  • STEP2(2剤併用)
    G1降圧薬から2剤を併用します。病態に応じて、G2降圧薬(ARNI、MR拮抗薬)も併用薬として用います。この際、配合剤を使用してできる限り患者さんの服薬錠数を増やさない工夫が重要です。ここでも目標未達成であれば、できるだけ早期にステップアップしますが、原則としてサイアザイド系利尿薬以外の各薬剤は通常用量までの増量を図ります。
  • STEP3(3剤併用)
    G1降圧薬とG2降圧薬から3剤を併用します。この段階では、原則としてサイアザイド系利尿薬を治療に含めることが推奨されています。もしサイアザイド系利尿薬がまだ投与されていなければ、追加を検討するとともに、患者さんの服薬アドヒアランスを再確認します。


STEP3まで進めても降圧不十分な場合は、

生活習慣の改善状況や薬物療法における
問題点を再度検討して
対策を講じるとともに、
高血圧専門医への紹介を考慮します。

各薬剤の特徴

高血圧の治療に使用される薬剤をまとめました。
前述した治療のステップと合わせて
参考にしてみてください。

薬剤分類 グループ 主な薬剤例 特徴・適応 注意点・副作用
Ca拮抗薬 G1a アムロジピン(ノルバスク®など)、ニフェジピンCR(アダラートCR®など) 強力な降圧作用をもち、幅広く使用される代表的な薬剤。臓器血流の保持に優れ、高齢者、脳血管障害慢性期、狭心症合併例などに広く適する。 下肢浮腫や歯肉腫脹、頭痛、ほてり

RAS阻害薬
(ARB/ACE阻害薬)

G1a アジルサルタン(ザクラス®など)、オルメサルタン(オルメテック®など)、エナラプリル(レニベース®など) 心保護、腎保護、尿蛋白減少効果が期待される。心血管疾患、CKD、糖尿病合併例、心不全などに適する。 高カリウム血症、腎機能悪化、ACE阻害薬では空咳
少量サイアザイド系利尿薬 G1b トリクロルメチアジド(フルイトラン®など)、ヒドロクロロチアジド 食塩過剰摂取例や、浮腫・体液貯留傾向のある症例で有用であり、配合剤の成分としても用いられる。 低ナトリウム血症、腎機能悪化、尿酸値上昇、耐糖能悪化
β遮断薬 G1b ビソプロロール(メインテート®)、カルベジロール(アーチスト®) 心不全や頻脈性不整脈などの心疾患合併例で使用され、緊張しやすい傾向のある患者さんに有効な場合もある。 徐脈、房室ブロック、低血圧
MR拮抗薬 G2 スピロノラクトン(アルダクトン®)、エプレレノン(セララ®)、エサキセレノン(ミネブロ®) カリウムを保持しながらナトリウム排泄を促進。塩分過剰摂取例や、心不全、CKD、糖尿病に伴うアルドステロン非依存性のMR活性化症例で有用。 高カリウム血症、腎機能低下、低血圧、脱水
ARNI G2 スピロノラクトン(アルダクトン®)、エプレレノン(セララ®)、エサキセレノン(ミネブロ®) ネプリライシン阻害薬とARBの合剤で、極めて強力な降圧効果をもつ。心不全合併や他剤でコントロール不良な症例でよい適応となる。

低血圧、高カリウム血症、腎機能障害、血管性浮腫

※原則として第一選択薬の位置づけではない。

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実際の症例

症例1

72歳女性。血圧168/84 mmHg。脈拍72/分。下腿浮腫あり。
前医でアムロジピン(Ca拮抗薬)10 mg内服中。
高齢女性で典型的な収縮期高血圧ですが、Ca拮抗薬最大量でもコントロール不良で、浮腫も目立っていました。
この症例では、Ca拮抗薬継続ではなく、RAS阻害薬追加+Ca拮抗薬減量を選択しました。アジルサルタン(RAS阻害薬)40 mg+アムロジピン(Ca拮抗薬)5 mgに減量したところ、血圧は収縮期140 mmHg台まで改善し、浮腫も軽減しました。それでもまだ高値であったため、トリクロルメチアジド(少量サイアザイド系利尿薬)1 mgを併用したところ、自宅血圧は120台/70台まで低下し、良好なコントロールとなりました。
本例は、Ca拮抗薬単独増量だけでなく、副作用を踏まえた組み合わせ変更が有効となった症例です。
また、降圧治療はひとつのタイプの薬をどんどん増やすよりは、複数タイプを組み合わせるほうが、より高い降圧効果が期待できます。

症例2

58歳男性。BMI31。糖尿病あり。
RAS阻害薬+Ca拮抗薬でも家庭血圧150/90 mmHg前後。
いびき、昼間の眠気あり。
肥満・治療抵抗性高血圧から睡眠時無呼吸症候群(SAS)を疑い、簡易検査を実施。重症SASを認めました。
持続陽圧呼吸療法(CPAP)導入後、家庭血圧は大きく改善しました。
この症例では「薬を増やす」前に、背景病態を評価することが重要でした。特に、肥満・早朝高血圧・難治性高血圧ではSASを見逃さないことが大切です。

まとめ

高血圧診療では、「どの薬でも同じ」ではありません。

  • 高齢者なのか
  • 糖尿病があるのか
  • CKDを伴うのか
  • 浮腫があるのか
  • 脈拍は速いのか
  • 塩分過多なのか
  • どのような合併症があるのか

こうした背景によって、適した薬剤は変わります。

多忙なクリニックの日常診療では、
ついDo処方になりがちですが、
血圧の数字だけを見るのではなく、
「なぜこの患者さんは高血圧なのか」
を考えることが、より質の高い診療につながります。

降圧薬を“漫然と継続する薬”ではなく、
“病態に合わせて選ぶ薬”として
捉えることが、これからの高血圧診療では
ますます重要になるでしょう。

執筆・監修医師

小鷹 悠二 (おだか ゆうじ)
所属:おだかクリニック 副院長
資格:日本循環器学会専門医、総合内科専門医、医学博士、産業医
 総合病院・大学病院での勤務を経て、2018年よりおだかクリニックの副院長として診療・経営にあたる。専門の循環器疾患(虚血性心疾患、心不全、不整脈など)はもちろんのこと、高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病や内科疾患全般の診療に従事。現在は、産業医や学校医など地域の医療を支える活動や、医療コンサルト、ライティング業務など幅広く活動している。

小鷹先生プロフィール詳細はこちら

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