
2026年10月施行”カスハラ対策の義務化”とは
厚生労働省では、
「カスタマーハラスメントの防止のために
講ずべき措置(義務)」として、
以下の措置を事業主の義務としています。
・事業主の方針等の明確化・周知
・相談体制の整備
・事後の迅速かつ適切な対応・再発防止
・悪質事案への対処体制
・相談者のプライバシー・権利保護
詳細は次の通りです。
◆ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- ① カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
-
②
カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容※を労働者に周知する
※管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ、可能な限り労働者を1人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ 等
◆ 相談体制の整備
- ③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
- ④ 相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする
◆ 事後の迅速かつ適切な対応
- ⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する
- ⑥ 被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
- ⑦ 再発防止に向けた措置を講ずる
◆ 対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置
- ⑧ 特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する
◆そのほか併せて講ずべき措置
- ⑨ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
- ⑩ 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する
現状では、対策の有無に対して罰則はないようです。
一方で、実施状況は
行政指導・勧告の対象になるため、
勧告に従わない場合は、
事業主名が公表されるなど、
不利益を被るおそれがあります。
クリニックでは、
ペイシェントハラスメント
(以下、ペイハラ)が発生すると、
受付が止まり、診療が遅れ、
他の患者さんにも支障が出る、
といった悪循環となります。
また、スタッフの離職、口コミ悪化、
院長の負担増加などの経営面にも
大きなダメージが及びます。
今後のペイハラ対策で重要なのは、
「患者さんだから多少は仕方ない」と
曖昧に処理するのではなく、
正当なクレームと悪質なハラスメントを
切り分けて一貫した対応を行うことです。
そのためにも、事前に対策を検討しておくことが大切です。
下記では、具体的なペイハラ対策を
3つに分けてご紹介します。
参照元:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
厚生労働省「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」PDF
対策① 対応方針の検討と周知
ペイハラ対策の最初の一歩は、
「このクリニックは何を許容し、
何を許容しないのか」を明文化し、
スタッフが統一した認識を持つことです。
また、スタッフだけでなく、
患者さんにも周知させることが重要です。
方針に必ず入れたい4項目
クリニックのペイハラ対応方針には、
以下の項目を含めることをおすすめします。
- 患者さんの権利と、安心・安全な医療提供を大切にする姿勢
- スタッフや他の患者さんへの暴言・暴力・威嚇・迷惑行為を容認しないこと
- 問題行為が起きた際は、複数名対応や外部機関への相談を行うこと
- 正当な苦情・要望は丁寧に受け止め、改善に生かすこと
ポイントは「曖昧な精神論」ではなく、
現場で判断しやすい文面にすることです。
周知する場所と方法
どれだけよい方針を作っても、
周知されていなければ抑止力は弱くなります。
患者さんや家族向け・スタッフ向けに、
それぞれ適切な場所と方法で伝えることが重要です。
患者さん・家族向け
スタッフ向けの周知方法
- 朝礼や定例ミーティング
- マニュアルへの記載
- スタッフ研修 など
クレームとハラスメントを
混同しない教育も必要です。
診療待ち時間の不満、説明不足への指摘、
請求内容の確認などは正当なクレームです。
一方で、暴言、人格攻撃、執拗な要求、
長時間拘束などはハラスメントです。
この区別を現場で共有しておくことで、
適切な患者さん対応ができるでしょう。
対策② 対応体制と記録
ペイハラ対策では、
対応者と引継ぎ基準を明確化し、
事実を記録・共有できる体制を整えることが重要です。
エスカレーション基準を明確にする
現場のスタッフで対応しきれない問題を
責任者や外部機関へ引き継ぐ基準を明確にします。
暴言や威圧、危険行為、長時間拘束、
業務への支障などについて、
それぞれに具体的な基準を定め、
スタッフ・責任者・院長で対応を段階化します。
電話も一定時間や同じ要求の反復を目安に
スタッフの負担と被害拡大を防ぎましょう。
エスカレーション基準の例
- 同じ要求を繰り返し、10分以上説明しても収まらない
- 大声、暴言、侮辱、威圧が始まった
- 他の患者さん対応に支障が出ている
- 退去要請に応じない
- スタッフが恐怖を感じている
- 身体接触、物を投げる、机を叩くなどの危険行為がある
- 電話での長時間拘束が続いている
- SNS投稿や口コミを使って脅す発言がある
- 診療内容の不満を超えて、謝罪や特別対応を強要している
役割分担を決める
少人数のクリニックでも、役割分担は重要です。
受付スタッフは一次対応と記録、
看護師・リーダーは安全確保、
院長は最終判断、
事務長等は再発防止を担うなど
役割を分けましょう。
院長が毎回対応しないこと、
女性や若手に負担を偏らせないことも重要です。
記録のルールを統一する
記録は、再発防止やスタッフの保護、
院内共有、法的リスク管理の基礎です。
以下の内容を主観は交えず事実として残しましょう。
- 発生日時、場所、対応者
- 相手の属性(患者本人、家族、付き添い等)
- 発生のきっかけと具体的な言動
- クリニック側の対応内容
- エスカレーションの有無
- 診療や院内業務への影響
- 最終結果と今後の対応方針
悪い例
「かなりひどく怒っていて怖かった」
良い例
「受付前で大声を上げ、『ふざけるな』『全員謝れ』と3回発言。机を2回叩き、約20分間その場を離れなかった」
電話は通話日時や時間、
発言要旨も記録し、
防犯カメラや録音データは
個人情報に配慮して適正に管理します。
対策③ 初動フローと外部連携
ペイハラは初動対応で被害の大きさが変わります。
対応基準を事前に定め、必要に応じて
警察や弁護士と連携して対応しましょう。
ペイハラ発生時のステップ
ペイハラ対応で大切なのは、
「相手を言い負かすこと」ではなく、
「スタッフと他の患者さんの安全を守りながら、業務を正常化すること」です。
あらかじめ対応手順を共有することで、
現場スタッフの迷いを減らすことができます。
| ステップ | 対応内容 | ポイント |
| 1. 状況確認 | 患者さん・家族の要求内容を確認 | 正当な苦情・要望が含まれていないかを把握し、最初から対立しない |
| 2. 境界線の提示 | 暴言や威圧には対応不可の意思を伝える | 「そのような言い方には対応できません」など、早期に明確に伝える |
| 3. 1人で対応しない | 責任者や他スタッフへ応援を要請 | 不安や恐怖を感じた時点でエスカレーションし、抱え込まない |
| 4. 場所の調整 | 必要に応じて別室での対応に切り替える | 密室での1対1は避け、複数名で出入口を確保して対応する |
| 5. 対応可否を判断 | 対応中止や退去要請の要否を判断 | 院長・管理者が事前に定めた基準に沿って判断する |
| 6. 記録・共有 | 発言、要求、対応内容、業務への影響などを記録 | 当日中に事実ベースで記録し、関係者間で共有する |
| 7. 再発防止 | 今後の対応方針や窓口を見直す | 窓口を統一し、書面対応、予約方法の見直しなどを検討する |
警察・弁護士へ相談する基準を事前に決める
暴力や器物損壊、脅迫、居座り、
ストーカー行為などは、
警察への相談を検討します。
継続的な不当要求、高額な賠償請求、
悪質なSNS・口コミ投稿、
受診拒否の判断などは、
弁護士への相談が有効です。
危険が及ぶ可能性がある場合は、
院長や管理者の確認を待たず、
安全確保と通報を優先する基準を定めましょう。
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