「高血圧治療ガイドライン 2025」に基づく処方のポイント

日本の成人において
最も有病率が高い高血圧ですが、
適切にコントロールされているのは
わずか3割で、一筋縄ではいきません。

特に、自覚症状のない患者さんに潜む
「夜間高血圧」や「仮面高血圧」による
サイレントな臓器障害を、
いかに早期にスクリーニングし、
予後悪化の芽を摘むかが臨床の最前線で問われています。

また、これまでの
「単剤を漫然と増量する治療」は
見直しを迫られています。
一剤の増量がもたらす副作用リスクや
アドヒアランス低下を避け、
早期の目標達成を図るには、
新たな薬剤グループ(G1〜G3)の
特性を理解した多剤併用・早期介入戦略が不可欠です。

本記事では、統計データの背景にある
高血圧の真の危険性と、
処方設計を劇的に変える治療アプローチを解説します。


第1弾では、鑑別のポイント
を解説!

高血圧の危険性

高血圧は「サイレントキラー」として
静かに進行し、将来の脳卒中、
心臓病、さらには慢性腎臓病や認知症の
発症リスクを著しく高めます

疫学研究では、
収縮期血圧が20 mmHg、
拡張期血圧が10 mmHg、
それぞれ上昇するごとに、心血管死亡リスクは
約2倍に増加することが示されています。

実際、日本では1年間に約17万人が
高血圧を原因とする脳卒中や
心臓病で死亡しており、
循環器疾患による死亡の最大の原因となっています。

さらに重要なのは、高血圧が
「介入によって予後改善が明確に得られる疾患」である点です。
収縮期血圧を10 mmHg下げるだけで、
脳卒中や心臓病の発症リスクを
約2割減少させることが報告されています。

高血圧を放置することは、
他疾患の治療にも悪影響を及ぼします。

例えば、糖尿病や脂質異常症を
合併する患者さんにおいて
血圧管理が不十分な場合、
大血管障害や微小血管障害の進行は急激に早まります。

また、高齢化に伴い心不全が
急激に増加している現在では、
高血圧は左室肥大や拡張能低下を招き、
心不全を引き起こす主要な原因となります。

さらに、腎機能の悪化を招き
末期腎不全のリスクを増大させます。

原疾患の管理や生命予後の改善のためにも
早期からの厳格な血圧コントロールが不可欠です。

こうしたリスクを
より正確に評価するために、
臨床現場で重要性が増しているのが
「24時間血圧測定(ABPM)」です。

脳心血管病リスクが特に高い
「夜間高血圧」や、
日中は正常に見える「仮面高血圧」は、
通常の診察室での血圧測定や
朝晩の家庭血圧測定だけでは
見落とされる可能性があります。

24時間の血圧変動
(サーカディアンリズム)を
詳細に把握することは、
潜在的な臓器障害のリスクをあぶり出し、
後述する最適な降圧薬や服用タイミングを
選択する上での極めて重要な指標となります。

高血圧の処方の選び方

最新のガイドラインでは、従来の
「第一選択薬」という枠組みが廃止され、
エビデンスや臨床的位置づけに基づき、
降圧薬が3つのグループに再編されました。

ここでは、3つのグループの特長と
処方の選び方を解説します。

降圧薬の3つのグループ

1. グループ1(G1降圧薬)

単剤で脳心血管病の抑制効果を示す
明確なエビデンスがあり、
薬物治療の中心となる薬剤群です。

<具体的な薬剤>

  • 長時間作用型Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)
  • ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
  • ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
  • 低用量のサイアザイド系利尿薬
  • β遮断薬

G1a降圧薬(Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬)

もっとも広く用いられる基本薬です。

  • Ca拮抗薬
    強力な降圧と臓器血流保持に優れ、高齢者や狭心症合併例に適しています。
  • RA系阻害薬(ARB/ACE阻害薬)
    糖尿病合併例や、微量アルブミン尿・蛋白尿を伴うCKD患者において高い腎保護・心保護効果を示し、積極的適応となります。

G1b降圧薬(低用量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬)

早期からの積極的な投与が推奨される薬剤です。

  • 低用量のサイアザイド系利尿薬
    日本人は食塩摂取量が1日約10 gと多く、食塩感受性高血圧が多いため、体液貯留傾向のある患者さんへの処方は極めて理にかなった選択です。
  • β遮断薬
    前版のガイドラインでは第一選択薬から外れていましたが、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)や心筋梗塞既往例などの心疾患合併例に対して予後改善効果のエビデンスが確立しており、G1降圧薬として明確に位置づけ直されました。
2. グループ2(G2降圧薬)

ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)およびMR拮抗薬が該当します。

  • ARNI
    心不全で確立されたエビデンスを持ち、強力な降圧とナトリウム排泄作用を有します。
  • MR拮抗薬
    G1降圧薬を複数組み合わせても下がらない治療抵抗性高血圧に対する追加薬として非常に有用です。
3. グループ3(G3降圧薬)

α遮断薬、ヒドララジン、
中枢性交感神経抑制薬などが含まれ、
特殊な病態や難治性高血圧に対して
専門的な判断の下で使用されます。

処方の選び方

JSH2025における重要な変更点は、
患者さんのリスクレベルに応じた
薬物治療の早期介入が徹底されたことです。
基本的にすべての患者さんに
生活習慣を改善する指導を実施しますが、
薬物治療を開始するタイミングは、
以下のようにリスク別に規定されました。

  • 低〜中等リスクの患者さん
    血圧140-159/90-99 mmHgで合併症や危険因子が少ない場合は、生活習慣改善の指導を行い、1ヵ月以内に再評価します。そこで十分な降圧が得られなければ、速やかに薬物治療を開始します。
  • 高リスクの患者さん
    血圧130-139/80-89 mmHgで糖尿病やCKDなどを合併している場合、生活習慣改善の指導と並行し、直ちに薬物治療を開始します。

JSH2025が示す薬物治療の3ステップです。

 

アプローチ

ポイント

STEP1

G1降圧薬の単剤

単剤での降圧目標(130/80 mmHg)達成は4割未満。降圧が不十分な場合は、早期にSTEP2へ進む。

STEP2

G1降圧薬の2錠併用

または、

G2降圧薬の切替・追加

G1(RA系阻害薬+Ca拮抗薬、RA系阻害薬+利尿薬、Ca拮抗薬+利尿薬のいずれか)

G2(ARNI、MR拮抗薬)

STEP3

3錠併用でも目標未達

治療抵抗性高血圧と考え、専門医への紹介を検討。

まとめ

高血圧を適切に評価し、
病態に応じた処方を選択することで、
高血圧により引き起こされる
心血管疾患などの重大な病気の
予防につながります。

最新のガイドラインに基づく
「130/80 mmHg未満の目標達成」と
「早期からの積極的な治療介入」を
実践し、患者さんの
長期的な予後の改善や、
健康寿命を延ばしていきましょう。

執筆・監修医師

小鷹 悠二 (おだか ゆうじ)
所属:おだかクリニック 副院長
資格:日本循環器学会専門医、総合内科専門医、医学博士、産業医
 総合病院・大学病院での勤務を経て、2018年よりおだかクリニックの副院長として診療・経営にあたる。専門の循環器疾患(虚血性心疾患、心不全、不整脈など)はもちろんのこと、高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病や内科疾患全般の診療に従事。現在は、産業医や学校医など地域の医療を支える活動や、医療コンサルト、ライティング業務など幅広く活動している。

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