
高血圧は、日本の成人において
もっとも有病率の高い疾患であり、
患者さんの数は約4,300万人に達すると推計されています。
しかし、そのうち治療によって
血圧が適切にコントロールされているのは
全体のわずか約3割(約1,200万人)にとどまっています。
残り約7割は以下の理由でコントロール不良です。
- 治療中であるもののコントロール不良:29%
- 高血圧の自覚はあるが未治療:11%
- 自覚がない:33%
世界的に見ても、
日本の血圧コントロール状況は
主要経済国の中で最下位レベルにあります。
そこで今回は、
2つの記事で高血圧の診療を解説します。
第1弾の本記事では、
高血圧の鑑別のポイントと症例についてご紹介します。
第2弾では、処方のポイントを解説!
coming soon…
高血圧の病態について
高血圧とは、心臓から送り出される血液の
血管壁に与える圧力(血圧)が、
慢性的に基準値を超えて高い状態が続くことを指します。
この状態が持続すると、血管内皮細胞が
過剰な機械的ストレス(圧負荷)を
常時受け続けるため、血管内皮機能障害が引き起こされます。
これにより、血管の拡張を担う
一酸化窒素(NO)の産生が低下し、
酸化ストレスや炎症反応が惹起され、
血管壁の肥厚や硬化、すなわち全身の動脈硬化が促進されます。
この慢性的な圧負荷は、
全身の主要臓器に対して
不可逆的な臓器障害をもたらします。
心臓においては、高い後負荷に打ち勝って
血液を駆出するために、
心筋の肥大や間質の線維化
(心筋リモデリング)が生じ、
拡張機能障害から心不全へと至ります。
腎臓においては、
糸球体高内圧が持続することで
糸球体硬化が進行し、
微量アルブミン尿や蛋白尿の出現、
さらには腎硬化症による腎機能低下をもたらします。
脳においては、微小血管の障害が
穿通枝領域のラクナ梗塞や脳出血、
大脳白質病変を引き起こし、
血管性認知症の要因ともなります。
高血圧は、単なる数値の異常ではありません。
交感神経系やレニン-アンジオテンシン
(RA)系の不適切な活性化を伴いながら、
全身の血管と臓器を静かに破壊していく
症候群であると理解することが重要です。
高血圧の診断をどのように行うか
ここでは、高血圧の診断について解説します。
高血圧の診断基準
2025年に改訂された最新のガイドラインでは
高血圧の診断基準は、従来通り
- 診察室血圧140/90 mmHg以上
- 家庭血圧135/85 mmHg以上
に据え置かれています。
血圧レベルの分類としては、
- 正常血圧:120/80 mmHg未満
- 正常高値血圧:120-129/80 mmHg未満
- 高値血圧:130-139/80-89 mmHg
と定義されています。
しかし、今回のガイドライン改訂における
もっとも重要なポイントは、降圧目標が
患者さんの年齢や合併症の有無によらず、
原則として全年齢で
「診察室血圧130/80mmHg未満
(家庭血圧125/75mmHg未満)」
に統一された点です。
これまでは75歳以上の高齢者などは
140/90mmHg未満とされていました。
しかし、高値血圧の段階から
心血管疾患の発症や死亡リスクが高いこと、
高齢者であっても130/80mmHg未満を
目指すベネフィットがリスクを上回ること、
これらが最新のエビデンスにより確認されたため、
目標値が統一されました。
年齢にかかわらず、
この目標値まで下げることで
脳卒中や心臓病が明確に少なくなります。
自宅血圧の評価
血圧の評価においては、診察室血圧よりも
脳心血管病リスクの予測能が高い
「家庭血圧」を重視し、
両者に診断の差がある場合は
家庭血圧による診断を優先します。
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測定タイミング |
朝(起床後1時間以内、排尿後、服薬・朝食前) 晩(就床前) |
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測定時の状態 |
座位1-2分安静後 |
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測定回数 |
1機会原則2回測定し、その平均値を記録 |
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評価に必要な期間 |
7日間(少なくとも5日間) |
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診断・判断基準 |
上記期間の朝・晩それぞれの平均値を用いる |
白衣高血圧や仮面高血圧に対処する
診察室のみ血圧が高い「白衣高血圧」は、
将来の持続性高血圧への移行リスクや
心血管イベントリスクが
非高血圧者より高いため、
未治療であっても注意深い経過観察が必要です。
一方、診察室では正常で
家庭血圧が高い「仮面高血圧」
(早朝高血圧や夜間高血圧など)は、
持続性高血圧と同等の高いリスクを持ちます。
これらの病態を見逃さないためにも、
すべての患者さんへの家庭血圧測定の指導が不可欠です。
高血圧初診時の鑑別診断
ここでは、高血圧初診時の鑑別診断を解説します。
二次性高血圧の鑑別
初診時には、本態性高血圧と、
特定の原因疾患が存在する
「二次性高血圧」の鑑別が必須となります。
二次性高血圧は全高血圧患者さんの
10%以上にのぼり、決して稀な疾患ではありません。
代表的なものとして、
- 原発性アルドステロン症
- 睡眠時無呼吸症候群
- 腎実質性高血圧
- 腎血管性高血圧
などがあります。
若年発症の高血圧、急速な血圧上昇、
血圧値に不釣り合いな臓器障害、
低カリウム血症や、治療抵抗性を伴う場合などは、
特に二次性高血圧を疑う必要があります。
鑑別のために実施すべき検査、評価するポイント
初診時には、
- 尿一般検査(尿蛋白、潜血など)
- 血液生化学検査(血清クレアチニン・eGFR、電解質、尿酸、血糖、脂質など)
- 心電図
- 胸部X線
などの基本検査を実施し、
標的臓器障害と脳心血管病リスクを総合的に評価します。
これにより、血圧値のみでは把握できない
潜在的な臓器障害や併存リスクも
早期に捉えることができ、
個々の症例における治療の緊急度や
治療方針を的確に判断することが可能となります。
<関連装置のご紹介>
この院内検査ができると診断がスムーズ
二次性高血圧を見逃さないポイントとして
血液検査の際に
血漿アルドステロン濃度(PAC)と
血漿レニン活性(PRA)または
活性型レニン濃度(ARC)の同時測定を
追加することをおすすめします。
これらの比である
アルドステロン/レニン比(ARR)を
算出することで、高血圧患者さんの
5〜10%を占める原発性アルドステロン症の
拾い上げが非常にスムーズになります。
また、聴診器を用いた頸部や腹部の
血管雑音の聴取および院内での
簡便な頸部・腹部エコー検査も、
腎血管性高血圧や動脈硬化の評価に極めて有用です。
症例紹介(非専門医が見落としやすいポイント)
前述した高血圧の診断・鑑別について、
筆者が体験した実際の症例をご紹介します。
高血圧の専門ではない医師が
見落としやすいポイントに触れながら解説します。
症例1:降圧薬を複数使っても下がらない、軽度低カリウム血症を伴う症例
60歳代・女性
<主訴>
検診での高血圧指摘
<経過>
初診時の血液検査でカリウム(K)値3.3 mEq/L。軽度の低値が見過ごされ、降圧治療を開始。通常量のARBとCa拮抗薬(CCB)の2剤併用療法を継続。しかし降圧効果が乏しく、開始3ヶ月時点の採血検査で持続していた低K血症の維持を認めた。治療抵抗性もあることから二次性高血圧を疑い、アルドステロン/レニン比(ARR)を測定したところ高値と判明。原発性アルドステロン症(PA)の疑いで総合病院へ紹介し、確定診断に至る。
<ポイント>
PAの患者さんであっても、典型的な低カリウム血症を呈するのは半数未満です。本症例のような「軽度のK低下」は見過ごされやすいため注意が必要です。「複数薬で降圧不十分」「わずかでもK値が低め」であれば、積極的にARRのスクリーニングを実施することが、PAの早期診断につながります。
症例2:いびきや昼間の眠気を訴え、早朝や夜間の家庭血圧が高い肥満男性
50歳代・男性(BMI31.3 肥満あり)
<主訴>
前医で治療中(3剤併用)だが、血圧コントロール不良
<経過>
ARB、CCB、サイアザイド系利尿薬の3種類の降圧薬を使用するが、早朝や夜間の家庭血圧が140〜150 mmHg台と高値で持続。問診にて「いびき」「日中の強い眠気」を聴取したため、簡易無呼吸検査を実施。AHI(無呼吸低呼吸指数)58と重症の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断。持続陽圧呼吸(CPAP)療法を導入した結果、降圧薬を増量することなく血圧コントロールが著明に改善。
<ポイント>
SASは二次性高血圧の大きな原因であり、交感神経の過緊張や低酸素血症により、早朝・夜間高血圧や治療抵抗性の要因となります。降圧薬を増やしても血圧が下がらない場合は、朝晩の家庭血圧値を必ず確認し、本人や家族から「いびき」「日中の眠気」「睡眠中の無呼吸」などの症状を問診で引き出すことが重要です。SASの診断とCPAP療法で、降圧薬の増量に伴う患者さんの負担を少なくできるかもしれません。
執筆・監修医師
小鷹 悠二 (おだか ゆうじ)
所属:おだかクリニック 副院長
資格:日本循環器学会専門医、総合内科専門医、医学博士、産業医
総合病院・大学病院での勤務を経て、2018年よりおだかクリニックの副院長として診療・経営にあたる。専門の循環器疾患(虚血性心疾患、心不全、不整脈など)はもちろんのこと、高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病や内科疾患全般の診療に従事。現在は、産業医や学校医など地域の医療を支える活動や、医療コンサルト、ライティング業務など幅広く活動している。
第2弾 記事 coming soon





