
夏になると、発熱に嘔吐・下痢・腹痛を
伴う患者さんが外来に増えます。
多くは自然軽快する感染性腸炎ですが、
なかにはO157など、重篤化し得る
感染症の可能性があります。
加えて腹部症状が強くない場合には、
熱中症や脱水症との鑑別も問題になります。
そこで今回は、夏の食中毒を
見逃さないための問診・検査の見方を整理しました。
夏の食中毒とは
食中毒には季節性があります。
低温や乾燥を好むウイルスの特性から、
冬は「ウイルス性食中毒」が流行しやすく、
夏は気温と湿度の上昇に伴い、
「細菌性食中毒」が増える傾向にあります。
さらに、細菌性食中毒は
「毒素型」と「感染型」に大別されます。
<毒素型>
食品中の原因菌が産生した毒素を摂取して発症
<感染症>
食品とともに摂取した細菌が腸管内で増殖、または食品中で増殖した原因菌を摂取して発症
毒素型では、食品の摂取後、
数時間以内に発症することが多い一方、
感染型では1日から数日後に発症することがあります。
潜伏期間に差があるため、
食歴の問診は注意が必要です。
診療のポイント
前述の通り、食中毒の診療において食歴などの問診が重要です。
そこで、問診のポイントを解説し、
食中毒の診断のために実施したい検査や、
症状が類似する熱中症・脱水症との違い
をご紹介します。
問診のポイント
患者さんの多くは「直前に食べたものが原因」と考えます。
しかし、夏の外来で頻度の高い「感染型」は、
発症までに1日〜数日かかるため、
昨日の食事だけを聞いても原因にたどり着けません。
鑑別には、数日前まで遡って食歴を尋ねることが必要です。
| 臨床像 | 原因菌 | 問診などの手がかり |
| 1日〜数日後に発熱・下痢・腹痛 | カンピロバクター | 加熱不十分な鶏肉(たたき、レバーなど) |
| サルモネラ | 鶏卵・食肉 | |
| 腸炎ビブリオ | 魚介類(夏の海水温上昇と関連) | |
| 数時間後に激しい嘔吐 | 黄色ブドウ球菌 | おにぎり・弁当 |
| 半日前後で腹痛・下痢 | ウェルシュ菌 | カレー・煮込みの作り置き |
| 血性下痢+強い腹痛 | 腸管出血性大腸菌 | 生肉、小児・高齢者では特に注意 |
このうち、細菌性食中毒で多いのがカンピロバクターです。
潜伏期間が2日〜5日と比較的長く、
原因食品がはっきりしないことも少なくありません。
食歴に加えて、同じものを食べた家族や
同僚の症状の有無(集団発生)、
海外渡航歴なども確認します。
血便の有無は重症例を拾うきっかけになるため、必ず聴取しましょう。
血便を伴う下痢では、腸管出血性大腸菌(O157など)を常に念頭に置きます。
血性下痢と強い腹痛が特徴で、
小児と高齢者ではHUSを続発して
重篤化するケースがあります。
疑った時点で便培養を提出し、
O157を診断した場合は、
三類感染症のため、直ちに届出が必要です。
検査で押さえるポイント
血液検査では、
CBC検査の白血球増多と
末梢血液像検査での核左方移動が
細菌性食中毒を示唆します。
CRPは細菌性食中毒で
高値を示すことがありますが、
ウイルス性でも上昇するため、
単独では決め手にはなりません。
むしろ、経過に見合わないCRP高値や、
時間をおいて再上昇する場合があれば、
合併症や別疾患を考えるきっかけになるでしょう。
脱水の程度は、CBCや生化学所見に表れます。
重度の脱水の場合は、血液濃縮により
ヘマトクリット・総蛋白・アルブミンが
見かけ上高くなり、BUN/Cr比の上昇
(おおむね20以上)がみられます。
電解質の検査では、
下痢による水分や電解質喪失に加え、
低張液を過剰に補給すると
低Na血症をきたすことがあります。
また、下痢が続くと低K血症や
代謝性アシドーシスを伴うこともあります。
さらに、嘔吐主体の症例では、
逆に低Cl性代謝性アルカローシスとなります。
この違いは、水分と電解質がどこから、
どれだけ失われているかを映しています。
熱中症・脱水症との違い
熱中症でも嘔気・嘔吐・下痢・発熱など、
食中毒と似た症状が現れることがあります。
手がかりは環境と発症状況です。
炎天下での作業や、
空調のない室内で過ごした後など、
食歴と無関係に急激に発症していれば熱中症を考えます。
検査ではCKが役に立つでしょう。
熱中症では横紋筋融解を反映して
CKが上昇し、AST/ALTなどの逸脱酵素も上がります。
しかし、単純な細菌性腸炎ではCKは通常正常です。
Naの動きも鑑別の参考になります。
水分摂取不良を伴う脱水では
高Na血症に傾く一方、
下痢が主体の腸炎では
低Na血症を伴うことがあります。
両者は併存する可能性もあるため、
病歴を丁寧に聴いたうえでCKと電解質を確認します。
初期評価と治療のピットフォール
まず、潜伏期間・食歴・血便の有無から
細菌性感染症を含む原因を推定します。
重症例では採血や身体所見から
脱水の程度を評価し、夏は熱中症の要素も確認します。
血便例、重症例、高齢者では、
便培養などの病原体検査を検討します。
感染性腸炎の大半は自然軽快するため、
抗菌薬は原則不要です。
注意したい腸管出血性大腸菌感染症では、
抗菌薬投与がHUSのリスクに
影響する可能性が指摘されており、
血便例での安易な投与は避けます。
腸管蠕動を抑制する止痢薬も、
毒素の排出を妨げるため同様です。
外来で重要なのは、体液管理です。
高齢者のハイリスク症例では、
夏場は下痢・嘔吐に発汗が重なり、
脱水が急速に進みます。
経口摂取が可能であれば経口補水液、
難しければ点滴で補液し、
失われた水分と電解質を補うことが重要です。
このほか、抗菌薬そのものが、
下痢の原因になることもあります。
ペニシリン系やセフェム系の投与後に
下痢が生じた場合は、
抗菌薬関連下痢症や
Clostridioides difficile
(クロストリジオイデス・ディフィシル)
感染症を考えます。
「食中毒の治りが悪い」と考え、
不用意な抗菌薬の投与を続けると
事態が悪化するリスクがあるため、
一度立ち止まって「抗菌薬が本当に必要か?」と考えることが重要です。
症例
42歳男性。3日前から38℃台の発熱と腹痛があり、前夜から水様下痢が1日10回近くとなって受診しました。本人は「昨日の昼の弁当が悪かった」と話していましたが、遡って聴取すると、発症2日前に焼き鳥店で鶏のたたきを食べており、同席者の1人も前日から下痢をしていました。
採血では白血球12,000/μL、CRP 8.5 mg/dL。血便はなく、血小板・Hbも正常でした。外来で、生理食塩水1,000 mLを点滴し、経口補水液の摂取を指導して帰宅可としました。翌日の再診で症状は軽減し、便培養からカンピロバクターが検出されました。抗菌薬は使用せず、5日後には軽快しました。
まとめ
夏の「発熱+消化器症状」は頻度が高く、多くは自然軽快します。
見落とせないのは、O157などによる重症化リスクです。
症状や食歴などの問診から
重要な手がかりを確実に拾い上げることが重要です。
食中毒に併発する可能性がある脱水も
丁寧に診断することで、
夏の食中毒診療で考えられる
重篤なリスクが減らせるかもしれません。
執筆・監修医師
本多 洋介 (ほんだ ようすけ)
所属:Myクリニック 本多内科医院(神奈川県横浜市) 院長
資格:総合内科専門医、循環器内科専門医
2009年、群馬大学医学部卒。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院を経て、2024年6月より現職。共著書に『PCI㊙裏技テクニック』(メジカルビュー社)、『超音波ガイドEVT』(メジカルビュー社)など。







