後継者不在のクリニック増加中 - 将来慌てないための「事業承継」入門【税理士法人監修】

クリニックの先生方にとって、
クリニックの「出口戦略」は、
いずれは避けて通ることのできない重要なテーマです。

全国のクリニック経営者のうち
60歳以上が52.7%に達しており、
全体の47.9%が現段階では
後継者候補不在というデータを見ると、
早い段階で将来の選択肢を知ることも
大切であることが分かります。

「一生院長でいたい」
という本音もあるかもしれませんが、
ご自身やご家族、患者さんのために、
クリニックの事業承継や
将来の選択肢について、
知ることから始めてみてはいかがでしょうか。

本記事では、個人開業医の先生方が
検討すべき主な出口戦略と、
その実現に向けた具体的なポイントを
分かりやすく解説します。

 参照元:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
     日本医師会総合政策研究機構「日本医師会 医業承継実態調査:医療機関経営者向け調査 No.440」PDF

クリニックの出口戦略3選

個人開業医の出口戦略は、
親族承継、第三者承継、廃業の3つの選択肢があります。

1. 親族承継(親子、娘婿などへの承継)

20年ほど前までは事業承継の約80%が
親族承継でしたが、
2019年の調査によると34%ほどで減少傾向です。
親族承継のメリットと留意点は次の通りです。

メリット

  • スタッフや患者さんなどの関係者から、心情的に受け入れられやすい
  • 後継者を早期に決定し、長期の準備期間を確保することが可能

留意点

  • 親族内に経営の資質と意欲を併せ持つ後継者がいるとは限らない
  • 親族間の話し合いの必要性: 円滑な承継のためには、以下の項目について親族間で腹を割って話し合うことが不可欠
    ✓ 承継時期
    ✓ 診療方針
    ✓ スタッフの雇用条件
    ✓ 借入金の引き継ぎ
  • 承継後も少なくとも10年以上必要な医業収益を確保できるかが、承継の判断基準

2. 第三者承継

親族内に後継者がいない場合、
近年増加しているのが第三者承継です。
これは、地域の医療を継続しながら、
現経営者がクリニックの売却利益を
獲得できるという点が大きな魅力です。

メリット

  • 後継者問題の解決
  • 譲渡対価が得られるため、リタイア後の生活資金として活用できる
  • 地域医療や従業員の雇用が継続できる
  • 医院を閉院する場合に発生する原状回復費用などが不要となる場合がある

留意点

  • 譲渡価格の交渉や買い手探しに時間がかかる
    ➤ 一般的に、第三者承継のプロセスは、初期検討から最終合意・クロージングまで12ヶ月程度の期間を要する。
  • 譲渡価格を決めるのに数期分の確定申告書が必要
    ➤ 一般的には、確定申告書(決算書を含む)を3期〜5期分準備し、妥当な金額を算定する必要がある。
  • 譲渡価格が安価になる
    ➤ 買い手側は新規開業よりもコストを抑えたいという意向を持つため、譲渡価格がシビアになる可能性もある。

3. 廃業(クリニックの閉鎖)

承継先が見つからない場合や、
経営者がリタイアを選択した場合の最終的な選択肢です。
廃業を選択すると、
患者さんの診療を継続できず、
スタッフの雇用も守ることができません。

さらに、廃業には金銭的負担が伴います。
行政手続きや、賃貸物件であれば
建物の原状回復費用、スタッフの退職金、
医療機器や薬品の処分費用などがかかり、
その金銭的な負担は1,000万円を超えることもあり得ます。

個人開業医特有のお金と税金のポイント

事業承継する際に、
個人開業医の先生方が特に留意すべきは、
事業用資産と税金の関係です。

譲渡時の税金対策

個人クリニックを第三者に承継する場合、
「営業権(のれん)」や
「資産(医療機器、土地・建物など)」の
譲渡代金に対して税金がかかります。

  • 医療機器などの資産の譲渡所得: 医療機器、車両、その他診療で使用する器具一式など、所有期間が5年を超える資産を売却する場合、譲渡所得の計算において税額が実質的に半分になる特例が適用されます。
  • 土地・建物の譲渡所得: 診療所の土地・建物は分離課税の対象となり、所有期間が5年超であれば税率が20.315%となります。

退職金の有無に要注意

個人開業医の場合、
院長=個人事業主であるため、
医療法人の理事長とは異なり、
医院から院長自身に退職金を支給するという概念が存在しません。
クリニックの譲渡対価が、実質的な
退職金代わりになることが多いですが、
税率が高くなる場合があるため注意が必要です。

この退職金がないことへの対策として、
小規模企業共済への加入は極めて有効です。
掛金は全額が所得控除となるため、
現役時代には節税になります。
仮に、院長が共済金を受け取らずに
亡くなられた場合、共済金は
死亡退職金として扱われます。
この際、「500万円 × 法定相続人の数」の
非課税枠が適用されるため、
相続税の課税対象額が減り、
また、受け取った死亡退職金は、
相続税の納税資金としても活用できます。

ご自身で一括受け取りをする場合も、
退職所得控除の優遇措置が適用され、
税負担が軽減されます。

承継成功のための早期計画と専門家活用

事業承継の準備は「早い方が良い」 のですが、
なかなか着手できないのが現実かもしれません。
承継期間を設け、承継後の役割を明確にすることが、院長(経営者)には求められます。

計画の着手ポイント:「アタマ」と「こころ」

承継の成功には、「アタマ」と「こころ」の両方の観点が必要です。

  • 「アタマ」(合理的観点): 売却価格の希望額を明確にし、廃院した場合の費用シミュレーションと比較検討するなど、数字とロジックを用いて合理的な解決方法を考えます。
  • 「こころ」(感情的観点): 親族、スタッフ、患者といった承継に関わる人たちの気持ちや感情に配慮します 。

専門家への相談

医院承継は複雑な手続きや、
税務・法務の専門知識が求められます。
特に、個人開業医の場合、
事業用資産と個人資産が混在しているため、
相続や税金面で思わぬ問題が生じる可能性があります。

円滑な親族承継や、
最適な第三者承継を実現するためには、
税理士やM&A仲介業者などの専門家に相談し、
ご自身の状況に合った最適な戦略を
構築することが成功の鍵となります。

「まだ自分には関係ないだろう」
と感じる先生も多いかもしれません。

しかし、今すぐ具体的な承継などを
検討する必要はなくても、
「どんな出口戦略があり得るのか」
「そのときに何が問題になりやすいのか」
を知識として早めに押さえておくことには大きな意味があります。

現時点で選択肢とリスクの概要を
知っておくことで、
日々の設備投資や借入、
働き方、キャリア設計の判断がしやすくなります。
また、将来、先生方の大切なクリニックの
価値と選択肢を守ることにもつながります。

「いざ」というときに慌てないためにも、
ポイントを理解しておくことが大切です。

執筆者

日本クレアス税理士法人
中川 義敬 税理士
 (執行役員、近畿税理士会所属)
<経歴>
2007年 税理士登録
2009年 日本クレアス税理士法人 入社
2019年 同 大阪本部本部長 就任
 東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等に従事。医院の新規開業支援、会計税務、医業承継・相続対策など、個人医院から大病院まで医療分野でのサポートに高い経験あり。

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