
「いかに税金を賢く抑えるか」は、
収支が安定した医院経営にとって
重要なテーマです。
所得が増えるほど税率が上がる
日本の累進課税制度を理解し、
計画的に節税することで、
手元に残るお金を増やすことができます。
そこで本記事では、
開業医の先生方が知っておくべき
具体的な節税対策を分かりやすく解説します。
もくじ
現金の流出を伴わない節税対策
まずは、現金の支払いを必要とせずに、
効率的に節税できる対策を4つご紹介します。
1、貸倒引当金の計上
まだ受け取っていない診療報酬など
未収金がある場合は、
将来の貸倒れに備えて
一定の金額を経費として計上できます。
個人開業医の場合、未収金額の5.5%が経費に計上可能です。
しかし、この節税効果は
貸倒引当金を計上した年だけとなり、
前年に計上した同額を、
翌年には収益として計上しなおす必要があります。
したがって、税率が高い年に
貸倒引当金を計上することで、
その年の税負担を軽減する効果が高くなります。
2、減価償却方法の変更
医療機器や設備、建物などの、
事業のために使用する固定資産は、
耐用年数に応じて少しずつ経費にすることができます。
これを「減価償却」といいます。
※耐用年数:税法で定められた、経費として分けて計上するための目安となる期間
この減価償却には大きく分けて「定額法」と「定率法」の2種類があります。
・定額法
毎年同じ金額を経費として計上する方法
・定率法
固定資産を購入した直後の数年間は、
より多くの金額を経費に計上し、
年数がたつごとに計上できる金額が少なくなる方法
【例 100万の医療機器を5年で減価償却する場合】
| 定額法 | 定率法 | |
| 1年目 | 20万 | 37万 |
| 2年目 | 20万 | 23万 |
| 3年目 | 20万 | 15万 |
| 4年目 | 20万 | 9万 |
| 5年目 | 20万 | 16万 ※最終年度は残額全部 |
※経費計上の金額はこの限りではございません。
分かりやすいよう単位を万に揃えています。
定率は開業初期の利益が大きい場合に、
より多くの経費を計上して
税負担を軽減する効果が期待できます。
個人事業主の場合、法律で定められているのは原則として「定額法」です。
もし「定率法」を選択したい場合は、
事前に税務署へ届出書を提出する必要があります。
この届出には期限があるため、注意が必要です。
3、開業準備費の任意償却
開業にかかった費用
(内装工事費や広告宣伝費など)は
「開業費」として計上し、
好きなタイミングで経費にできます。
所得税率が高くなる年を選んで
まとめて償却することで、
より大きな節税効果を得ることができます。
4、租税特別措置法26条の活用
租税特別措置法26条は、
収入金額に応じて「概算経費」を計上できる制度です。
以下の要件をすべて満たす個人開業医に適用されます。
• 社会保険診療に係る収入金額が5,000万円以下
• 総収入金額(保険診療+自由診療)が7,000万円以下
この特例を適用することで、
実際の経費が少なくても、
収入金額に応じて計算された「概算経費」を
必要経費として計上できます。
これにより、所得金額を大きく下げ、
納税額を抑えられる可能性があります。
しかし、この特例は青色申告の特典である
青色申告特別控除と併用できないため、
どちらが有利か慎重に検討する必要があります。
現金の流出を伴うが賢くお金を増やす節税対策
次に、現金の支出は伴うものの、
将来の備えや事業の成長につながる節税方法です。
3つの節税テーマに分けて7つご紹介します。
将来の資産形成につながる節税
1、小規模企業共済への加入
個人開業医には退職金制度がないため、
この制度を公的な退職金として活用できます。
毎月の掛け金は全額が所得控除となり、
大きな節税効果があります。
家族である専従者も加入できるので、
ご家族の老後資金準備にも有効です。
2、倒産防止共済への加入
取引先が倒産した際に、
自院が巻き込まれて連鎖倒産するのを防ぐための制度です。
この共済の掛け金も全額を
経費として計上できるため、
節税効果があります。
解約した場合には、
掛け金納付月数に応じた割合で返金され、
40ヶ月以上納付していれば全額が返金されます。
設備投資による節税
3、少額減価償却資産の購入
通常、固定資産は
耐用年数に応じて経費計上しますが、
中小企業者などの要件を満たす場合、
30万円未満の資産(医療機器や事務用品)は
購入した年に全額を経費にできます。
この特例は年間合計300万円まで利用可能です。
4、中古資産の購入
乗用車や医療機器を中古で購入すると、
新品より耐用年数が短いため、
短期間でまとめて経費にできます。
特に、耐用年数が短い車両は大きな節税効果が期待できます。
従業員の福利厚生を通じた節税
5、中小企業退職金共済(中退共)
従業員のための退職金制度で、
掛け金は全額が経費になります。
しかし、原則として従業員全員の加入が必要です。
6、臨時決算賞与
所得が一時的に増えた場合に、
従業員に臨時賞与を支給する方法です。
昇給と異なり、翌年以降の経費が
固定化するのを避けつつ、
柔軟に節税ができます。
7、厚生年金
個人開業医の場合、常勤従業員が
5名以上になると厚生年金への加入が強制となります。
5名未満でも任意で加入できるため、
従業員の福利厚生として検討する価値があります。
しかし、従業員負担分を給与から差し引くため、事前の説明が必要です。
まとめ:戦略的な節税の重要性
節税は、闇雲に行うのではなく、
自身の所得水準や事業計画に合わせて
戦略的に行うことが重要です。
日本の所得税は
所得が増えるほど税率が高くなる
累進課税という考え方があり、
この仕組みを理解することで、
どの対策が最も効果的か判断できます。
ご紹介した節税対策が
皆様の状況に本当に合っているかは、
専門家である税理士にご相談いただくのが1番です。
累進課税は、まるで積み重なった階段のようです。
所得が増えるほど階段を一段ずつ上り、
より高い税率が適用されます。
節税対策は、この階段を
上る速度を調整したり、
一部の段を飛び越えたりすることで、
最終的に支払う税金の総額を減らすための
賢い道具だと言えるでしょう。
執筆者

日本クレアス税理士法人
中川 義敬 税理士
(執行役員、近畿税理士会所属)
<経歴>
2007年 税理士登録
2009年 日本クレアス税理士法人 入社
2019年 同 大阪本部本部長 就任
東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等に従事。医院の新規開業支援、会計税務、医業承継・相続対策など、個人医院から大病院まで医療分野でのサポートに高い経験あり。



