
厚生労働省の調査では、国内で「糖尿病が強く疑われる者」は約1,100万人と推計されています。一方、糖尿病専門医の医師数は十分ではなく、すべての糖尿病のある人を専門医だけで診療することは現実的ではありません。
そのため、糖尿病を専門としない医師も日常診療のなかで糖尿病診療を担い、必要に応じて専門医と連携していくことが重要です。
糖尿病をもつ患者さんの診察では、外注での検査により1か月前の採血結果を説明するのと、その日の結果を診察室で伝えるのとでは、診療の進め方やスピード感が大きく変わります。院内で当日に結果を確認できれば、目の前の数値を見ながら生活を振り返り、その場で処方を調整し、次回までの目標を決めることも可能です。
そこで今回は、専門医でなくても実施しておきたい院内検査と、その活用法について解説します。
糖尿病診断に院内でHbA1c検査を!
当日のフィードバックが患者さんのモチベーションにつながります
糖尿病診療で院内検査を活用するポイント
臨床検査の一つの選択肢として、検査センターに依頼する外注検査があります。
しかし、外注検査では、採血から結果説明まで数日から1か月の間隔が空きます。患者さんにとっては「先月の自分」の数値であり、1か月前の自分の食生活がどうだったかを覚えている人は少ないでしょう。また、結果説明のためだけの再診は患者さんの負担にもなります。
一方、当日に結果が分かれば、「この2週間、間食が増えていませんでしたか」などと具体的に振り返ることができ、処方の調整、生活習慣の確認と見直しが同時にできます。
治療変更が先送りされる、いわゆる「クリニカル・イナーシャ」を防ぐうえでも、当日の数値の確認は強力な武器になり、数値と行動が結びつくという実感が、治療継続の動機づけにも直結します。また、院内検査の導入は他施設との差別化ポイントとなり、集患にもつながるでしょう。
診察室でのフィードバックのポイント
効果的なのは、患者さん自身による振り返りです。
検査結果が改善していれば、何が変わったのかを患者さん自身の言葉で振り返ってもらいます。「夕食後に歩くようにした」「間食を控えた」など、血糖の改善につながった行動を患者さん自身が実感できると、その行動は定着しやすくなります。医師が褒めて終わりの一方通行にしない、というのが患者さんの意識を高めるポイントです。
悪化していれば、食事内容、服薬状況、体重の推移などを確認します。「数値が悪い=ダメ」と捉えるのではなく、原因を探って具体的な対策を考え、血糖管理の目標を改めて共有することが重要です。
「夕食後の10分歩行」「体重を毎朝測る」など、次回までの目標を1つに絞ると継続率が高くなります。
当日に検査をしてフィードバックをすることで、自分の行動を覚えているうちに、結果と紐づけることができます。結果をもとに生活習慣や治療内容をその場で見直し、次回までの具体的な目標設定につなげることが重要です。「次の採血で考えましょう」を繰り返すうちにどんどん悪化するという事態を避けられます。
院内で実施したい検査とは
院内で当日に確認したいのは、次の3項目です。
このうち随時血糖は、HbA1cが安定していても食後高血糖などの血糖変動がないかを疑う手がかりになります。食後何時間経っているかも合わせて確認しましょう。
注意したいのは、HbA1cが実態を反映しない病態です。鉄欠乏性貧血や腎性貧血、輸血後、肝硬変などでは、HbA1cが実際の血糖状態を正確に反映しないことがあります。また、食後高血糖が主体の症例や朝方にかけて血糖値が上昇する暁現象では、HbA1cと血糖値が乖離します。さらに、変異ヘモグロビンによる乖離の可能性もあります。数値が経過と合わないと感じたら、これらを念頭に血糖自己測定や持続血糖測定の追加を検討することが重要です。
POCT機器の導入には機器・試薬のコストがかかりますが、それ以上に重要なのは院内の動線設計です。受付直後に採血する流れをつくれば、診察の時点で結果が揃い、スムーズな診療が行えます。採血、機器の操作、結果の伝達を誰が担うのか、役割分担まで決めておくことが肝心です。また、定期的な精度管理やメンテナンスも必要なため、導入時に確認しておくようにしましょう。
<参考ブログ記事>
糖尿病の判断に「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」
健診で「境界型」「HbA1c 6.0〜6.4%」と指摘されたまま、精査を受けずに放置されている患者さんは少なくありません。空腹時血糖が正常でも耐糖能異常(IGT)が隠れていることがあり、HbA1cだけでは拾えない群です。
健診結果の紙を持ったまま数年が過ぎ、初診時にはすでに糖尿病型、という例は珍しくありません。IGTは心血管疾患リスクとの関連が知られており、糖尿病と診断される前の段階から介入する意義があります。境界型と判定できれば、「まだ糖尿病ではない」ではなく「今から介入して、糖尿病になることを防ぎましょう」という説明に切り替えられます。また、糖尿病の進行を把握するために「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」を活用すると良いでしょう。
75g OGTTの判定は、空腹時血糖と負荷後2時間値の組み合わせで行います。空腹時126 mg/dL以上または2時間値200 mg/dL以上が糖尿病型、空腹時110 mg/dL未満かつ2時間値140 mg/dL未満が正常型、いずれにも該当しないものが境界型です。
30分・60分値は血糖変動のパターンを知る手がかりになり、必要に応じてインスリンを同時測定することで、インスリン分泌の評価などに活用できる場合もあります。患者さんには、前日夜から絶食する必要があることや、検査に2時間以上を要すること、待ち時間が発生することなど、事前に説明します。75 gブドウ糖の飲用後、30分・60分・120分に採血するタイミングは、あらかじめスタッフで共有するとスムーズに検査を実施できます。
なお、OGTTのような短時間で頻回の血糖測定は、患者さんに採血を嫌がられることがあります。最近のPOCTの血糖測定器では、簡易血糖測定器と同様の操作で検査できるものもあり、採血の負担を軽減できます。
糖尿病専門医へ紹介するタイミングとは
急激な体重減少、若年発症、ケトーシスなど1型糖尿病を疑う場合、著明な高血糖でインスリン導入を要する場合、糖尿病腎症の進行、妊娠中・妊娠希望などの患者さんでは、糖尿病専門医への紹介を検討します。専門医への紹介は役割分担の1つです。自院で対応する範囲と専門医へ紹介する基準をあらかじめ決めておくことが、安全かつ丁寧な診療につながります。
また、糖尿病による様々な合併症(神経障害、網膜症、腎症など)に注意が必要です。自覚症状のないまま進行することもあるため、専門の診療科との定期連携を日常診療に組み込みましょう。初診時に受診を促し、以後は程度に応じた間隔で通院が続いているかを外来のたびに確認すると良いかもしれません。診療報酬上も医科歯科・眼科などとの連携を評価する仕組みがあり、合併症を管理する体制の後押しになっています。
まとめ
院内検査で変わるのは、検査の速さそのものではなく、患者さんとの向き合い方です。
「その日の数値を一緒に見て、うまくいったことを確かめ、その場で治療を組み立て直す」
この積み重ねが信頼関係を築き、適切な血糖管理につながります。OGTTは、境界域のまま放置された患者さんを拾い上げる手段になりますので、自院でできない場合には糖尿病専門医への紹介を考えましょう。
紹介すべき症例は紹介しつつ、その手前の大多数に対しては、専門医でなくてもできることを丁寧に実践し、クリニックと病院の役割分担を意識することが、地域の病診連携にもつながります。まずは、当日の診療でHbA1cを患者さんと一緒に確認することから始めてみてください。
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執筆・監修医師
本多 洋介 (ほんだ ようすけ)
所属:Myクリニック 本多内科医院(神奈川県横浜市) 院長
資格:総合内科専門医、循環器内科専門医
2009年、群馬大学医学部卒。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院を経て、2024年6月より現職。共著書に『PCI㊙裏技テクニック』(メジカルビュー社)、『超音波ガイドEVT』(メジカルビュー社)など。


















