
HbA1cは中長期的な血糖状態をみるには
有用な指標ですが、血糖を直接
測定しているわけではないため、
実際の血糖値と乖離することがあります。
この乖離の背景には、
さまざまな要因がありますが、
見落としてはいけない原因のひとつが、
変異ヘモグロビンです。
本記事では、HbA1cと血糖値が
乖離したときに確認すべき点や
変異ヘモグロビンを疑うタイミング、
どのように評価を進めるべきかを整理して解説します。
「HbA1cと血糖値の乖離」確認すべきポイントは?
HbA1cと血糖値が乖離した際は
2つのポイントを整理します。
以下1、2で評価できない場合に
変異ヘモグロビンを疑う必要があります。
- 実測血糖や日内変動とHbA1cが本当に乖離しているかを整理
- 赤血球寿命・貧血・腎機能など代表的な要因を確認
1. 実測血糖や日内変動とHbA1cが本当に乖離しているかを整理
まず行うべきなのは、乖離の実態を客観的に整理することです。
たとえば、クリニック外来でたまたま
血糖が正常だったとしても、
普段の食後高血糖や
夜間高血糖が見逃されていれば、
HbA1cだけが高いように見えることがあります。
逆に、採血当日の血糖が
一時的に高かっただけで、
HbA1cは比較的安定していることもあります。
ここで重要なのは、単回の血糖値だけで
HbA1cと比較しないことです。
以下のような情報を確認すると、
真の乖離かどうかが見えてきます。
- 空腹時血糖・食後血糖
- 自己血糖測定の推移
- 直近数週間の生活変化
- 感染症・ストレス・ステロイド使用など一時的な高血糖要因 など
2. 赤血球寿命・貧血・腎機能など代表的な要因を確認する
HbA1cは赤血球寿命の影響を強く受けます。
赤血球が長く生存すれば
糖化の機会が増え、HbA1cは
高めに出やすくなります。
逆に赤血球寿命が短いと、
糖化される前に赤血球が除去されるため、
HbA1cは低めに出やすくなります。
代表的な確認ポイントは以下の通りです。
- 溶血性貧血・鉄欠乏性貧血
- 出血後・輸血後
- 腎不全・透析
- 妊娠
- エリスロポエチン使用
- ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏 など
たとえば鉄欠乏性貧血では、
HbA1cが相対的に高く出ることがあります。
一方、溶血や出血後、
エリスロポエチン投与後などでは、
若い赤血球の割合が増えて
HbA1cが低く出やすくなります。
慢性腎臓病では赤血球寿命の短縮や
ESA製剤の影響が加わるため、
HbA1cが平均血糖を過小評価することもあります。
このように、赤血球動態に異常がないかを見ていくことが基本です。
変異ヘモグロビンを疑うのはどのような場面か?
変異ヘモグロビンとは、
グロビン鎖のアミノ酸置換などによって
構造が変化したヘモグロビンの総称で、
HbS、HbC、HbE、HbDなどがよく知られています。
日本でも変異ヘモグロビンが
多数報告されていますが、
無症候性のことが多いため、
患者さん自身もその家族も気づいていない場合がほとんどです。
そのため、日常診療では、
症状ではなく、検査値や血糖指標の
不一致を手がかりに疑う視点が重要になります。
血糖プロファイルに比べてHbA1cが不自然に高値・低値を示す場合
変異ヘモグロビンを疑う典型的な場面は、
血糖プロファイルから予測されるHbA1cと
かけ離れた値が繰り返し出る場合です。
特に以下のような状況では注意が必要です。
- 血糖値の割にHbA1cが極端に低い/高い
- 同じ患者さんで施設や測定法が変わるとHbA1cが大きく変動する
- 糖尿病の臨床像とHbA1cが合わない など
変異ヘモグロビンによる影響は、
必ずしもHbA1cが「低く出る」「高く出る」と一方向ではありません。
どの変異で、どの測定法を使っているかによって結果が異なります。
したがって、HbA1cが
「低いから変異ヘモグロビン」
「高いから違う」と単純には判断できません。
重要なのは、臨床像との不一致です。
また、HPLC法や電気泳動法で
HbA1cを測定している場合、
クロマトグラム上の異常ピークが
手がかりになることがあるため、
見逃さず確認すると良いでしょう。
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GA(グリコアルブミン)など他の指標と整合しない場合
HbA1cの信頼性に疑問があるとき、
GA(グリコアルブミン)は非常に有用です。
GAはアルブミンの糖化を反映する指標で、
赤血球寿命やヘモグロビン異常の影響を
受けにくい特徴があります。
そのため、変異ヘモグロビンが
疑われる場面では、HbA1cとの比較が
診断のヒントになります。
たとえば、GAが高値であるにもかかわらず
HbA1cだけが低い場合には、
HbA1cの偽低値が疑われます。
逆に、GAがそこまで高くないのに
HbA1cだけ高ければ、偽高値の可能性も考えるべきです。
ただし、GAにも注意点があります。
ネフローゼ、甲状腺機能異常、
肝硬変、低アルブミン血症など、
アルブミン代謝が変化する病態では
GAの解釈が難しくなることがあります。
したがって、GAも万能ではなく、
背景病態を踏まえたうえで補助的に使うことが重要です。
家族歴や既往も手がかりになる
変異ヘモグロビンは遺伝性のため、
家族歴が診断の手がかりになることがあります。
家族に貧血やヘモグロビン異常症を
指摘された人がいるか、
患者さん本人が原因不明の貧血があるか、
健診でHbA1cの解釈が難しいと
指摘された経緯があるか、
などを確認することが有用です。
また、変異ヘモグロビンの中には
溶血傾向や赤血球寿命短縮を伴うものもあります。
その場合は、軽度の黄疸、
LDH上昇、ハプトグロビン低下、
網状赤血球増加などがみられることがあります。
ただし、無症候で検査結果もほぼ正常な例が少なくありません。
家族歴や既往は決定打ではないものの、
「他の要因では説明しにくいHbA1cの乖離」
があるときに、変異ヘモグロビンを疑う
後押しになる重要な情報です。
変異ヘモグロビンが疑われた場合の対応と評価の進め方
変異ヘモグロビンが疑われる場合は、
- 測定法の確認
- 別指標での血糖評価
- 必要に応じた専門的検査
へと段階的に評価を進めることが大切です。
大事なのは、「HbA1cの値が
そのまま信用しにくい患者さんに対して、
どう安全に血糖管理を行うか」という視点です。
測定法の違いを確認し、必要に応じて再評価する
HbA1cはHPLC法、免疫法、酵素法、
電気泳動法など複数の測定法があり、
変異ヘモグロビンの影響の出方は測定法によって異なります。
HbA1cと血糖値が乖離する場合は、
以下の内容を確認することが重要です。
✓ 測定法
✓ クロマトグラムの異常ピーク
✓ 別法での再測定可否
✓ 過去の測定値との違い
院内で判断が難しい場合は、
糖尿病専門医や病院への紹介も検討しましょう。
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HbA1c以外の指標も活用して血糖管理を判断する
見かけ上のHbA1cに引きずられると、
過剰治療や治療不足につながるおそれがあります。
変異ヘモグロビンが疑われ、
HbA1cの信頼性が低い場合は、
HbA1cに依存しない指標を活用して、
患者さんの血糖管理を行うことが重要です。
✓ 自己血糖測定
✓ GA(グリコアルブミン)
✓ 1,5-AG
✓ 定期的な実測血糖の推移
などを組み合わせて評価します。
特にGAは赤血球寿命や
ヘモグロビン異常の影響を受けにくく、
補助指標として有用です。
あわせて、患者さんには
「HbA1cが通常どおりには
解釈できない可能性」を説明し、
なぜ別の指標を重視するのかを
共有しておくことも大切です。
診療録や紹介状にHbA1c解釈への
注意点を明記しておくと、
他院受診時の混乱防止にも役立ちます。
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血糖自己測定器(SMBG)
まとめ
HbA1cと血糖値が乖離したときは、
まず本当に不一致があるのかを
丁寧に確認することが重要です。
そのうえで、赤血球寿命の変化、貧血、
腎機能障害、輸血、薬剤など、
より頻度の高い要因を先に評価します。
それでも血糖プロファイルに比べて
HbA1cが不自然な高値・低値を示す場合は、
変異ヘモグロビンの可能性を考慮します。
GAとの不一致、測定法による差、
異常ピークの存在、家族歴や既往は、
変異ヘモグロビンを疑う手がかりになります。
疑われた場合は、再評価や専門医への紹介など検討しましょう。
変異ヘモグロビンは頻度こそ高くないが、
見逃すとHbA1cの解釈を誤り、
診断や治療方針に影響する可能性があります。
HbA1cと血糖値に違和感があるときこそ、
変異ヘモグロビンを含めた広い視点で
鑑別を進めることが、適切な臨床判断につながります。
監修
アークレイマーケティング株式会社 学術サポートチーム







