糖尿病患者さんの診療で確認したい合併症リスク(神経障害・網膜症・腎症など)とは

※当ブログ記事は神谷英紀先生の執筆・監修ではございません。

糖尿病の診療では、血糖値やHbA1cの評価に加えて、合併症である神経障害、網膜症、腎症などの有無や進行リスクも定期的に評価する必要があります。どれも初期は症状が乏しく、患者さんが気づいた時点では治療の選択肢が限られることもあります。

一方、糖尿病の合併症につながる兆候やリスクは、専門医でなくても、問診と診察、院内の検査で把握できることが多くあります。日常の診療で確認したい項目を順にまとめます。

合併症ごとに確認したい「問診」内容

糖尿病性神経障害

まず確認したい内容

  • 足のしびれ
  • ぴりぴりする痛み
  • 感覚の鈍さ
  • 夜間に強くなるか
  • 左右差があるか

この問診を意識しておくと、ほかの原因と鑑別がしやすくなるでしょう。

追加で確認したい自律神経症状

  • 立ちくらみ
  • 食後のもたれ
  • 便秘と下痢の繰り返し
  • 発汗の異常

糖尿病の自己マネジメントが十分ではない方だと、これらの自律神経症状でいろいろな内科を受診しているものの、原因不明と言われていることがあります。しびれが手にも及ぶ場合や、足首よりも上方まで症状が及ぶ場合は、頸椎症やビタミンB12欠乏も鑑別に入れます。

糖尿病性網膜症

まず確認したい内容

  • 眼科の最終受診時期
  • 網膜症を指摘された経験や、レーザー治療既往

自覚症状がない場合、受診を自己判断で中断している方も多く、最後の受診から数年あいている方もいます。罹病期間とこれまでの血糖マネジメントの経過も併せて評価しましょう。

健診で糖尿病を指摘されてから受診までに時間があいている方では、初診の時点で網膜症や腎症が進んでいることがあります。増殖糖尿病網膜症でも視力が保たれる時期があるため、「見えているから大丈夫」という本人の申告だけでは判断できません。

糖尿病性腎症

まず確認したい内容

  • 「尿蛋白」や「尿アルブミン」を指摘された経験
  • むくみ
  • 尿の泡立ち
  • 血圧の経過
  • 常用している鎮痛薬

鎮痛薬の常用に関しては本人が薬とそれほど意識していない場合もあるので注意が必要です。

歯周病

まず確認したい内容

  • 歯磨きのときの出血
  • 歯ぐきの腫れ
  • 歯のぐらつき
  • 口臭
  • 歯科の受診歴

歯周病があると血糖コントロールが悪化しやすいですが、歯科健診を受ける機会がなく、放置されていることがあります。

その他の合併症

さらに、「胸部症状」、「歩行時の下肢の痛み」、「心血管・脳血管疾患の既往」、「喫煙歴」も押さえておきましょう。胸部症状や跛行症状は患者さんから自発的に出てこない場合も多いため、初診の際や定期的な検査の際に確認してください。

診察・院内検査で確認すべきことは?

足の診察

足の診察は、靴下を脱いでもらうところから始めます。胼胝、鶏眼、白癬、爪の変形、乾燥や亀裂、潰瘍、足趾の変形を確認し、足背動脈と後脛骨動脈が触れるか、冷感がないかを確かめましょう。胼胝の下に潰瘍が隠れている場合があるので、硬くなった部位は押して痛みの有無を見ます。
足の診察は少なくとも年に1回行い、潰瘍の既往や変形がある方はより短い間隔で見てください。既往がある方は看護師に先にチェックしてもらうとよいでしょう。

神経障害の評価

神経の評価は、Ipswich Touch Testが手軽です。患者さんに目を閉じてもらい、人差し指で両足の第1趾・第3趾・第5趾の先端に1〜2秒ずつ軽く触れ、触れたことがわかるかを答えてもらうだけです。6か所のうち2か所以上で感じ取れなければ、保護知覚が低下した足として扱います。器具がいらず、10 gモノフィラメントとも結果がよく一致することが報告されています。また、神経障害は装置による定量検査も可能です。
糖尿病性の合併症のうち、神経障害が最も早く発現するといわれています。診療に検査を組み込むことで、早期発見の仕組みづくりが重要です。

血圧の測定

起立性低血圧は、臥位と立位で血圧を測れば外来で評価できます。

腎機能の評価

一方、腎機能は、尿定性だけでは早期の変化を捉えきれません。随時尿で尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)を測り、eGFRと組み合わせて判断します。一時的に上がる場合もあるため、期間をあけて複数回測定し、評価しなければなりません。

心電図による評価

心電図は定期的に記録して、無症候性心筋虚血を示唆する所見や安静時の頻脈がないかを見ます。糖尿病では胸部症状が出にくく、受診が遅れがちです。

合併症の症状から糖尿病が見つかるケース

逆に、合併症の症状をきっかけに糖尿病が見つかる場合もあります。治りにくい足の傷、繰り返す白癬や蜂窩織炎、再発する尿路感染症や皮膚の感染、外陰部のかゆみは、血糖値を確認するきっかけになります。

かすみ目や見えにくさも同じで、高血糖が原因のこともあります。口渇、多飲、多尿、体重減少などが認められれば、高度な高血糖をきたしている可能性を考える必要があるでしょう。

当院の症例

足の痛みを主訴に受診された60代の男性で、足底の胼胝の下に浅い潰瘍が見つかり、随時血糖とHbA1cを測ったところ糖尿病が判明した、という患者さんがいらっしゃいます。振動覚も低下しており、神経障害を背景にした潰瘍と判断しました。糖尿病はさまざまな疾患の背景に隠れている場合があるため、広い視点で診察することが重要です。

専門医への紹介目安

眼科の場合

眼科は、糖尿病と診断した時点で全例に受診を勧め、網膜症がなくても年に1回は受診してもらいます。HbA1cが高い方の治療を強化するときは、急な血糖の改善で網膜症が一時的に悪化する場合があるので、先に眼底を見てもらうように意識しています。

また、眼科受診のタイミングを逃さないよう、糖尿病と診断した時点で紹介状を渡すこともおすすめです。

歯科の場合

歯科も、症状がなくても定期受診を勧めます。特に初発の糖尿病では、年齢に比して口腔内環境が悪化していないか、一度確認するのがよいでしょう。

腎臓内科の場合

腎臓内科への紹介は、腎症の程度や短期間での腎機能の悪化、尿たんぱく陽性などを目安にします。血尿を伴うときは腎炎などの糖尿病以外の腎疾患も考え、早めの紹介を行いましょう。

その他の診療科

足の潰瘍や感染、安静時の痛みがあれば、早めにフットケアや血管外科へつなぎ、胸部症状や心電図の変化、歩行時の下肢の痛みがあれば循環器へ紹介します。糖尿病では、脳心血管疾患のリスクが高いことも踏まえ、これらの症状を見逃さないことが重要です。

まとめ

糖尿病の診療では、血糖管理に加えて、定期的な足・眼・腎臓・口腔の状態チェックを忘れてはいけません。自院で判断が難しい場合は、早めに専門医へつなぎ、継続的にフォローしてもらいましょう。

糖尿病は、症状が現れるまで気づきにくい合併症も多いため、医療者側が積極的に問診を行い、身体所見を確認する必要があります。足や目の症状で受診された患者さんでは、糖尿病が背景に隠れている可能性を一度は考えるようにしましょう。

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執筆・監修医師

本多 洋介 (ほんだ ようすけ)
所属:Myクリニック 本多内科医院(神奈川県横浜市) 院長
資格:総合内科専門医、循環器内科専門医
 2009年、群馬大学医学部卒。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院を経て、2024年6月より現職。共著書に『PCI㊙裏技テクニック』(メジカルビュー社)、『超音波ガイドEVT』(メジカルビュー社)など。

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