
冬になると、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症などの呼吸器感染症が増加します。また、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎も流行しやすく、嘔吐や下痢による脱水に注意が必要な季節です。
高血圧、狭心症、心筋梗塞、心不全、不整脈などの循環器疾患をもつ患者さんでは、こうした感染症が基礎疾患を悪化させる「きっかけ」になることも少なくありません。
循環器疾患をもつ患者さんを診療する際は、「何の感染症か」を診断すると同時に、「感染症によって心臓や循環動態に変化が起きていないか」を確認することが重要です。
そこで本記事では、冬季感染症による、循環器疾患の増悪リスクを防ぐための検査や治療のポイントを解説します。
循環器疾患と冬季感染症のリスク
特に注意したいのが心不全の悪化です。
インフルエンザなどの感染症が原因で高熱となった場合、心拍数が普段以上に増加します。その結果、これまで安定していた患者さんでも、息切れ、むくみ、体重増加など、心不全の悪化につながるかもしれません。
狭心症や心筋梗塞にも注意が必要です。
感染症によって全身に強い炎症が起こると、動脈硬化性プラークが不安定化し、血栓形成が促進されると考えられています。
また、発熱や低酸素、脱水、電解質異常などの感染症の症状は、心房細動などの不整脈を誘発する原因にもなります。感染症の患者さんで脈が速い場合、「発熱による頻脈」と決めつけず、脈が不規則ではないかを確認することが大切です。
さらに、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎では、脱水と腎機能悪化が大きな問題です。特に高齢者、心不全や慢性腎臓病をもつ患者さん、利尿薬などを使用している患者さんでは、数日間の嘔吐や下痢でも血圧低下や腎機能悪化、電解質異常につながる可能性があります。
注意すべき所見と必要な検査・治療
どのような症状・所見に注意するか
感染症の重症度を発熱の程度だけで判断しないことが重要です。
特に、以下の場合には、感染症を起因とした心不全や急性冠症候群、不整脈、脱水・腎機能障害などの可能性が高まります。
- 安静時にも息苦しい
- 横になると呼吸が苦しい
- 胸痛がある
- 著明な頻脈・徐脈・不整脈
- SpO₂が低下している
- 血圧が著しく低い
- 急にむくみや体重が増えた
- 尿量が減った
- 意識状態が悪い
強い呼吸困難、持続する胸痛、意識障害、ショックを疑う状態などがあれば、速やかな救急搬送が必要となることもあります。
クリニックで実施したい検査とは
まず、体温だけでなく、血圧、脈拍、呼吸数、SpO₂を確認します。可能であれば、普段の血圧・脈拍や体重と比較することも重要です。インフルエンザやノロウイルスなどが疑われる場合には、抗原検査やPCR検査などを行います。しかし、循環器疾患をもつ患者さんでは、感染症を調べるだけでは十分ではありません。
血液検査で白血球数やCRPから炎症の程度を確認するとともに、BUN、クレアチニンなどの腎機能、Na、Kなどの電解質、肝機能、血糖などを確認します。心不全増悪が疑われる場合にはBNPまたはNT-proBNP、胸痛や心筋障害が疑われる場合には、心筋トロポニン測定を検討します。
尿検査は脱水や腎障害の評価だけでなく、発熱の原因として尿路感染症が隠れていないかを確認するうえでも有用です。細菌感染が疑われる場合には、病態に応じて血液、尿、喀痰などの培養検査も検討します。さらに、頻脈や脈不整、胸部症状があれば心電図、肺炎や心不全が疑われれば胸部X線を行い、必要に応じて心エコーを追加し、心機能やうっ血の程度を評価します。
※筆者作成、クリックで拡大
必要となる治療
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症では、年齢、基礎疾患、重症度、発症からの時間などを考慮して抗ウイルス薬を使用します。細菌性肺炎や尿路感染症などでは、感染部位や重症度、腎機能などを考慮して抗菌薬を選択します。一方、ノロウイルスなどの感染性胃腸炎では、水分・電解質の補給などの対症療法が中心です。
また、嘔吐・下痢や食事・水分摂取量の著しい低下、低血圧、脱水、腎機能悪化などがある場合には、常用薬の一時的な休薬・減量を検討することがあります。利尿薬、RAA系阻害薬、ARNI、MRA、SGLT2阻害薬などについては、循環動態や腎機能をみながら個別に判断します。
実際の症例
70歳代男性。高血圧と心筋梗塞の既往があり、心機能が軽度低下している患者さんです。冬に38℃台の発熱と咳が出現し、自宅で様子をみていました。しかし2日後から食事がとれなくなり、息切れと動悸が出現したため受診しました。
インフルエンザ抗原検査は陽性でしたが、それだけでなくSpO₂低下と頻脈を認め、胸部X線では肺炎に加えて肺うっ血も疑われました。血液検査でも炎症反応上昇とBNP上昇を認め、インフルエンザ感染を起因とした心不全増悪と判断しました。
このように、高齢者、心不全、心筋梗塞・狭心症の既往、慢性腎臓病、糖尿病などをもつ患者さんでは、感染症をきっかけとして全身状態が急速に悪化する可能性があります。
そのため、「インフルエンザを診断する」だけではなく、インフルエンザによって、基礎心疾患が悪化していないかまで評価することが重要です。
まとめ
循環器疾患をもつ患者さんでは、インフルエンザやノロウイルスなどの冬季の感染症を起因として、心不全、心筋梗塞、不整脈、脱水、腎機能障害などが起こったり、その他の基礎疾患が悪化したりする可能性があります。
一般内科外来では、感染症の診断だけで診療を終わらせず、息切れ、胸痛、動悸、むくみ、体重変化、血圧、SpO₂、尿量、食事・水分摂取量など、「普段との違い」に注目することが重要です。
そして、感染後の対応で重要になるのが予防です。2025年改訂版心不全診療ガイドラインでは、心不全患者に対するインフルエンザワクチン接種は推奨クラスIとされ、肺炎球菌およびCOVID-19ワクチンについても接種を考慮することが推奨されています。
冬季の感染症診療では、感染症を診ると同時に「合併症も評価する」という視点が、循環器疾患をもつ患者さんの重症化を防ぐことにつながるでしょう。
執筆・監修医師
小鷹 悠二 (おだか ゆうじ)
所属:おだかクリニック 副院長
資格:日本循環器学会専門医、総合内科専門医、医学博士、産業医
総合病院・大学病院での勤務を経て、2018年よりおだかクリニックの副院長として診療・経営にあたる。専門の循環器疾患(虚血性心疾患、心不全、不整脈など)はもちろんのこと、高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病や内科疾患全般の診療に従事。現在は、産業医や学校医など地域の医療を支える活動や、医療コンサルト、ライティング業務など幅広く活動している。








