残暑期に増える睡眠障害を見逃さない|循環器リスクとの関係

睡眠障害があると、夜間血圧が乱れたり、
自律神経のバランスが崩れたりします。
また、高血圧や不整脈などの
循環器リスクを高めることも少なくありません。
さらに、睡眠時無呼吸症候群(SAS)など
夜間高血圧に関連する疾患が隠れているかもしれません。

だからこそ、クリニックの診療では
睡眠の状態を簡単にスクリーニングし、
気になるサインがあれば早期介入することが大切です。

本記事では、外来で「季節のもの」として
様子見されがちな睡眠障害の背景にある
循環器リスクと、その対策をご紹介します。

残暑と睡眠障害の実態

東京大学の研究によると、
最低気温が25℃を超える熱帯夜が続くと、
睡眠障害が有意に増加することがわかっています。
その健康損失は、熱中症に匹敵するとも報告されています。

夏場は寝苦しさで夜中に目が覚めたり、
睡眠が浅くなったりする患者さんが一気に増える時期です。
しかし、外来では「暑いから仕方ない」と
経過観察となってしまい、
背景にある循環器リスクが
見過ごされることも少なくありません。
特に、高齢の方や
高血圧・糖尿病などの持病がある方は、
循環器リスクが強まりやすく、
いつも以上に丁寧な問診を心がけたいところです。

残暑が引き起こす睡眠障害のメカニズム

人はもともと、眠りに入るときに
深部体温を下げることで、
深いノンレム睡眠へと入っていきます。
ところが高温多湿な環境では
この体温低下がうまくいかず、
入眠困難や中途覚醒、睡眠維持困難につながりやすくなります。

こうした睡眠障害により、本来は夜間に
低下するカテコラミン分泌が亢進し、
交感神経が優位な状態が続きやすくなります。
結果、心拍数や血圧の日内変動に影響し、
夜間血圧の低下が不十分になる可能性があります。
特に、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、肥満
などを有する患者さんでは、
暑熱による睡眠障害が夜間血圧異常を顕在化させることもあります。

また、日中の暑熱負荷により
自律神経系への負担が続くと、
夜間の回復が不十分になりやすいと考えられます。
熱帯夜が連日続く時期には、
一晩の寝不足と捉えるのではなく、
以下の状態が伴っていないか
確認する視点が求められます。

  • 睡眠の質の低下が持続
  • 早朝血圧の上昇
  • 動悸
  • 夜間頻尿
  • 起床時頭痛

睡眠障害が循環器に及ぼす影響とは

慢性的な睡眠障害があると、
本来は夜間に10~20%ほど低下する血圧が
十分に下がらないnon-dipper型や、
日中より高くなるriser型
夜間血圧パターンにつながることがあります。

こうした夜間血圧異常は、交感神経活動や
レニン-アンジオテンシン系の
過活動を介して、脳心血管イベントや
左室肥大、夜間不整脈のリスク上昇と
関連することが報告されています。
日中の家庭血圧や診察室の血圧が正常でも、
夜間高血圧や早朝高血圧が
潜在していることがあるため、
血圧変動が大きい患者さんや
臓器障害を伴う患者さんでは注意が必要です。

また、睡眠時無呼吸症候群(SAS)との
鑑別にも注意が必要です。
SASは二次性高血圧の重要な背景疾患であり、
Non-dipper型やriser型の
夜間血圧パターンとも関連します。
しかし、夏はSASの有無にかかわらず、
暑さによる睡眠の妨げそのものが、
夜間血圧を上昇させることがある点も、
念頭に置きたいポイントです。

診断アプローチと評価のポイント

ここでは、外来で取り入れやすい、
評価の流れを3つのステップでご紹介します。

STEP1:問診

入眠困難・中途覚醒・日中の眠気・いびきの有無を確認します。
ツールとしてはエプワース眠気尺度などが
簡便な評価ツールとして知られています。

<問診の具体例>
「最近、夜中に目が覚めることはありますか」
「朝起きたとき、ぐっすり眠れた感じがしますか」
体重や血圧測定のついでに聞くだけでも、
スクリーニングのきっかけになります。

STEP2:睡眠障害の評価

いびきや無呼吸などが確認でき、
SASが疑われる場合は、
パルスオキシメトリーや
簡易睡眠検査/簡易SAS検査を行います。

重症SASが確認されれば、
持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)を検討し、
疑いが強い場合は睡眠ポリグラフ検査(PSG)での精査につなげます。

STEP3:関連疾患に関する検査

睡眠障害が長引いている患者さんは、
循環器疾患との関連を把握するため、
家庭血圧や自由行動下血圧測定(ABPM)で
夜間血圧パターンを確認し、
non-dipper型・riser型のパターンを
示していないかを見ていきます。
不整脈が疑われる場合は、
24時間ホルター心電図を追加するのもよい方法です。

また、以下の検査を組み合わせることで
狭心症や心筋梗塞などにつながる
動脈硬化リスクを簡便かつ総合的に評価することができます。

  • 生化学検査
    HbA1c、脂質(LDL-C、中性脂肪)、eGFR、血清クレアチニン、など
  • 尿検査
    尿蛋白、尿潜血、尿中アルブミン、など

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睡眠障害が見られた場合の対処

睡眠障害と循環器リスクの
関連が疑われたら、
まずは就寝前の室温・湿度管理、
冷房の設定温度やタイマーの見直し、
就寝前の水分の摂り方、就寝時間の調整
といった生活支援から始めます。

具体的な数値・行動レベルの支援は、
患者さんが実行しやすく、有用です。
「暑さでよく眠れないことが、血圧にも影響しているかもしれません」
とひと言添えるだけでも、
納得感がぐっと高まります。

それでも改善が乏しい場合や、
夜間血圧の異常が確認された場合、
あるいはSASの疑いが強い場合は、
循環器内科や睡眠専門外来へ紹介し、
CPAP療法の導入も含めた精密検査・治療につなげます。

特に、無呼吸低呼吸指数(AHI)が
15以上で中等症以上と判断される場合や、
家庭血圧・ABPMで
明らかな夜間高血圧が見られる場合は、
専門医へつなぐタイミングだといえるでしょう。
反対に、生活支援の効果があれば、
次回受診時に再評価してもよいでしょう。

睡眠の状態は一度だけで判断せず、
残暑が続く間は何度か確認することが大切です。

まとめ

残暑期の睡眠障害は、
「よくある季節の症状」ではなく、
循環器疾患リスクの早期サインかもしれません。

診療において、
入眠困難や中途覚醒、いびき、
早朝高血圧、夜間頻尿、などを確認し、
SASも含めて評価することが重要です。

また、必要に応じて簡易睡眠検査、
ホルター心電図などを組み合わせ、
生活支援や専門医への紹介を検討しましょう。

睡眠障害の訴えを見逃さない姿勢が、
循環器疾患の予防と早期介入につながるかもしれません。

執筆・監修医師

木村 眞樹子(きむら まきこ)
所属:Myクリニック 本多内科医院(神奈川県横浜市) 院長
資格:日本睡眠学会 専門医
 東京女子医科大学医学部卒業後、東京女子医科大学病院循環器内科入局。東京女子医科大学病院、および関連病院で内科、循環器科、睡眠科としての診療を経て、現在はファミリークリニック蒲田にて訪問診療などを行っている。また、嘱託産業医として複数企業の健康経営にも携わるほか、記事の執筆や監修にも携わっている。

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