クリニックで実施したい「動悸」の鑑別診療とは?

動悸は、循環器内科だけでなく、
一般内科の外来診療においても
非常に多く遭遇する症状のひとつです。

患者さんは「心臓が止まるのではないか」
といった不安を抱えて受診されることが多いです。

そのため医師は、その動悸が
命に関わる危険な疾患に由来するものか、
それとも緊急性の低いものか、を見極めて、
適切な初期対応をすることが求められます。

本記事では、循環器が専門ではなくても、
日々の外来で動悸を主訴とする患者さんを
診るための初期アプローチ、
鑑別のポイント、自院で実施したい検査を整理します。

さらに、スマートウォッチなどの
最新デバイスを診療にどう取り入れるか、
これからの動機診療のアップデートについても解説します。

動悸の鑑別

動悸の原因として代表的な疾患は、
不整脈などの心臓の病気ですが、
動悸=心臓病とは限らない点にも注意が必要です。

動悸の原因は不整脈だけではない!

心臓に原因がある場合、
最も頻度が高いのは期外収縮です。
上室性・心室性いずれも
日常診療の代表的な所見であり、
その多くは良性(治療不要)です。

しかし、期外収縮が連発する場合や、
1日の発生頻度が多い場合など、
治療介入を要する例外もあるため注意が必要です

治療を要する不整脈として
見逃してはいけないのは、
心房細動、発作性上室頻拍、
心室頻拍、徐脈性不整脈などです。
循環器疾患としては、
心不全、弁膜症、虚血性心疾患、心筋症
動悸の原因になることがあります。

心臓以外の原因も多岐にわたり、
甲状腺機能亢進症、貧血、低血糖、
脱水、肺疾患などが挙げられます。
貧血では酸素運搬を補うために
心拍数が上がり、
低血糖では交感神経が刺激され
動悸が生じます。
さらに、パニック障害、
アルコールやカフェインの過剰摂取、
市販の感冒薬などの薬剤
引き金になることも少なくありません。

見逃してはいけない“危険な動悸”

かかりつけ医がもっとも注意すべきは、
生命を脅かす病態を見逃さないことです。
「レッドフラグサイン(Red flags)」
の所見を認めた場合は、
緊急性を判断したうえで、
速やかに専門医紹介または救急対応を検討してください。

  • 失神、ふらつき、意識消失を伴う
  • 胸痛や強い息苦しさを伴う
  • 安静時心拍数が120回/分超、または45回/分未満
  • 全く不規則な頻脈(心房細動疑い)の新規出現
  • 突然死の家族歴や器質的心疾患の既往がある

当院での症例

<患者さん>
30代女性。労作時や緊張時の「ドキドキ」で来院。
<診断>
心電図は洞性頻脈のみでしたが、問診で体重減少と手の震えが判明し、血液検査で甲状腺機能亢進症と診断されました。不整脈だけでなく、全身疾患の評価が必須であると再認識させられたケースです。

動悸の診断で実施したい院内検査

限られた診療時間の中で、
見落としを防ぎつつ、効率的に
動悸の原因を判断するには何が必要でしょうか。

かかりつけ医のすべての先生が
今すぐ実践したい3つの院内検査と、
より詳細を把握するために
追加で検討したい2つの院内検査をご紹介します。

院内で実施したい3つの検査

かかりつけ医の先生に
まず実施いただきたい
基本の検査3つをご紹介します。

  1. 12誘導心電図
  2. 血液検査
  3. 胸部レントゲン検査

すべての症例で実施したい検査は12誘導心電図です。
発作時の記録がもっとも重要ですが、
非発作時でもWPW症候群や
QT延長症候群などの致死性不整脈の兆候、
心筋虚血や心室肥大の所見が
得られることがあります。

次に血液検査です。
心外性要因を除外するために、
次の検査項目が推奨されます。

  • 血算(貧血の有無など)
  • 電解質(Na・K・Cl・Ca・Mg)
  • 甲状腺機能(TSH、FT4)
  • 血糖・HbA1c
  • 肝機能(AST・ALT・γGT)
  • 腎機能(BUN・Cre)

また、心負荷の評価には
BNP(またはNT-proBNP)も有用です。
胸痛があるなど虚血性を疑う場合には
トロポニンも測定します。

胸部レントゲン検査は、
心拡大や肺うっ血を確認し、
心不全や肺疾患をスクリーニングするために有用です。

循環器専門医でなくても、
これら3つの検査は院内で実施することが推奨されます。

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循環器系の評価に必要な2つの検査

循環器専門医ではないクリニックでも、
可能であればホルター心電図は非常に有用です。
毎日、動悸の症状が発生する患者さんでは
診断率が高く、紹介前の情報としても価値があります。
心エコー検査も有用ですが、
不整脈そのものを診断するというより、
背景にある構造的心疾患を評価する検査と考えるべきです。

心エコー検査は、弁膜症、心筋症、
心機能低下などの器質的心疾患の評価に必須です。
心機能が低下している患者さんの不整脈は
悪性度が高い傾向にあるため、
治療適応の判断において極めて重要です。

これらは可能なら院内で実施し、
困難な場合は専門医へ検査を依頼すると良いでしょう。

<検査によって得られる所見の一覧>

検査の内容

主な所見・評価項目

12誘導心電図

  • 発作時の直接的な不整脈記録
  • WPW症候群やQT延長症候群などの致死性不整脈の兆候
  • 心筋虚血、心室肥大などの心臓への負荷所見

血液検査

血算

貧血の有無

血算、電解質、甲状腺機能、血糖・HbA1c、肝機能、腎機能

心外性要因の評価

BNPまたはNT-proBNP

心負荷の評価

トロポニン

心筋虚血の評価

胸部レントゲン検査

  • 心拡大の有無
  • 肺うっ血の有無
  • 心不全や肺疾患のスクリーニング

ホルター心電図

  • 12誘導心電図では捉えきれない、日常生活における不整脈の検出
  • 毎日動悸がある患者における不整脈の

心エコー検査

  • 弁膜症、心筋症、心機能低下などの器質的・構造的心疾患の評価
  • 背景にある心臓疾患(不整脈の悪性度に関わる病態)の検出

さらに一歩踏み込む「動悸の評価」

発作の頻度が少ない場合、来院時の
12誘導心電図やホルター心電図では
不整脈を捉えきれないことが少なくありません。
このようなケースでは、
以下のような検査が診断の助けになります。

保険適用がある機器

発作が間欠的な場合は、
患者さんに数週間貸し出して
動悸が出た際に患者さん自身が測定する
イベントレコーダー(携帯型心電計)が有用です。

また、近年急速に普及している
パッチ型長時間心電計は、
最長14日間にわたり、入浴中も含めて
連続記録が可能なため、
一過性の心房細動などの検出率を
劇的に向上させることができます

失神を伴うような
重篤な動悸があるにもかかわらず
原因不明な場合は、
上胸部の皮下に植え込み、
長期間心拍リズムを記録する
植込み型ループレコーダー
(植込み型心電図記録計/ICM)
最長3年~4年にわたり、心電図を記録することができます。

保険適用がない機器

近年、スマートウォッチの普及が
動悸診療を大きく変えつつあります。

Apple Watchの心電図アプリケーションと
不規則な心拍の通知プログラムは、日本でも
「家庭用心電計・皮膚電極配置式心電計」
として医療機器として承認され、
不整脈の検出が可能となりました。
脈波の乱れから心房細動を検知し
通知する機能や、動悸を感じた際に
時計の竜頭(デジタルクラウン)に
指を当てることで心電図を記録する機能を持っています。

当院での症例

<患者さん>
60代男性。月に1度程度の動悸があり。
<診断>
ホルター心電図では異常を捉えることができませんでした。しかし後日、ご自身のApple Watchで動悸症状時に記録した心電図のデータを持参されました。波形を確認したところ、心房細動の波形が記録されていました。これにより早期に診断がつき、抗凝固療法とカテーテルアブレーション治療へつなぐことができました。スマートウォッチは医師にとって強力な「診断補助デバイス」となっていることを感じさせた症例でした。

まとめ

かかりつけ医による動悸診療の基本は、
丁寧な問診による動悸の分類と、
基本検査を用いた危険な器質的心疾患
および心外性要因の迅速な除外です。
そして、レッドフラグサインを見逃さず、
治療介入が必要な症例を専門医へつなぐことが肝要です。

現代は、スマートウォッチの普及により、
患者さん自身が日常的に不整脈を
記録できる時代へと変化しています。
これらの新しいデバイスから得られる
心電図データを積極的に診療に取り入れ、
ホルター心電図やイベントレコーダーと
組み合わせて適切に評価していくことが、
これからの動悸診療のアップデートに不可欠となるでしょう。

執筆・監修医師

小鷹 悠二 (おだか ゆうじ)
所属:おだかクリニック 副院長
資格:日本循環器学会専門医、総合内科専門医、医学博士、産業医
 総合病院・大学病院での勤務を経て、2018年よりおだかクリニックの副院長として診療・経営にあたる。専門の循環器疾患(虚血性心疾患、心不全、不整脈など)はもちろんのこと、高血圧や高脂血症、糖尿病等の生活習慣病や内科疾患全般の診療に従事。現在は、産業医や学校医など地域の医療を支える活動や、医療コンサルト、ライティング業務など幅広く活動している。

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