症例で学ぶ:『AF(心房細動)が出た』と言われたときの初期対応とBNP活用

患者さんが持参した”AFの記録”。
それは早期心不全を見逃さないための
貴重な手がかりとなります。

心房細動の裏には、自覚症状のない
「隠れ心不全」が潜んでいることが少なくありません。

本記事では、かかりつけ医が
AF患者さんを診る際に強力な武器となる
「BNP検査」の重要性とその解釈を中心に、
心不全の芽を早期に発見し、
適切なタイミングで専門医へ繋ぐための
具体的なステップを詳しく解説します。

AF(心房細動)とは?どんな不整脈?

AF(心房細動:Atrial Fibrillation)は、
心房が規則正しく収縮できず、
不規則かつ高速に電気的興奮を繰り返す不整脈です。

その結果、心房は有効に収縮できなくなり
脈拍も不規則になるため
動悸や息切れなどの症状を引き起こします。

心電図診断における3つの特徴

AFの診断は心電図で行います。
以下の3つの特徴(心電図AF波形)を確認してください。

  1. P波がない(消失)
  2. RR間隔がバラバラ(絶対的不整)
  3. 細かいf波(細動波)がみられる(ただし不明瞭なことがある)

なぜ危険なのか?AFが引き起こす2大リスク

循環器診療でAF(心房細動)が
重要視されるのは、主に以下の2つの
重大な合併症を引き起こすからです。

  • 心原性脳塞栓症(脳梗塞):心房内で血液が鬱滞し、左心耳にできた血栓が脳の血管に飛ぶと、重篤で後遺症の残りやすい心原性脳塞栓症を引き起こします。
  • 心不全:AFでは頻脈が持続することで心機能が低下し、頻脈誘発性心筋症を来すことがあります。AFでは頻脈が持続することで心機能が低下し、頻脈誘発性心筋症を来すことがあります。さらにAFでは、心房収縮の消失や不整脈による左室充満障害を介して心不全が増悪しやすく、特に高齢者ではHFpEF(左室駆出率保持型心不全)の発症や増悪に深く関与しています。その結果、息切れや浮腫などの心不全症状が出現・増悪することがあります。

【症例】72歳男性、高血圧、家庭心電計でAF通知

ここからは、具体的な症例を通じて外来での初期対応を考えてみましょう。

【症例】
72歳男性。高血圧で貴院に通院中。主訴:「今朝、家庭用心電計(またはスマートウォッチ)で『心房細動の疑い』という通知が出た。他には特に気になることがない。」

外来での初期対応「まず何を確認するか」

このような患者さんが来院された際、
まずは以下の手順で冷静に評価を行います。

  1. バイタルサインと症状の確認(緊急性の判断)
    脈拍数、血圧、SpO2、強い胸痛、安静時の強い息切れ、めまいや冷汗、意識レベルの低下がないかを確認します。もし血圧低下(ショックバイタル)や急性心不全のサインがあれば、直ちに救急搬送の対象となります。隠れ心不全の段階では、普段の生活のなかでの呼吸困難を感じたことがないかを確認することも重要です。荷物を持った時や屈んだ時などに息切れをしていないか、問診で確認します。患者さんによっては、無意識のうちに活動量が低下していて、これらの症状が表面化していないことも少なくありません。「最近少し動くと苦しい」「以前より活動量が減っている」といった変化がないかも合わせて確認します。
  2. 心房細動の確定診断
    患者さんが持参した家庭用デバイスの種類を確認します。医療機器として承認された携帯型心電計など、ECG(心電図)ベースの機器でAF波形が確認できる場合には、診断の参考となります。医師が記録波形を確認しAFと判断できれば、携帯型発作時心電図として診療報酬算定が可能な機器もあります。一方、携帯型心電計やスマートウォッチで得られる単誘導心電図では、虚血性心疾患など他の重要な心疾患を十分に評価できない場合があります。そのため、胸痛を伴う症例や、虚血性変化・他疾患が疑われる場合には、必ず12誘導心電図を施行します。
  3. 脳卒中リスクの層別化(CHADS2スコア)
    AFが確定した場合、最も重要な初期判断のひとつが「抗凝固療法(DOACなど)を開始すべきか」です。以下のスコアを用いてリスクを計算します。

リスク因子

内容

点数

C

心不全 (Congestive heart failure)

1点

H

高血圧 (Hypertension)

1点

A

年齢75歳以上 (Age ≥ 75)

1点

D

糖尿病 (Diabetes mellitus)

1点

S2

脳卒中/TIAの既往 (Stroke/TIA)

2点

この症例の場合、高血圧の1点となり、
抗凝固療法を検討するクラスとなります。
出血リスク(HAS-BLEDスコアなど)や
腎機能、併用薬の他、
AFのエピソード時間を考慮しつつ、
抗凝固薬の導入を検討します。

“心不全を見逃さない”「BNPで見えたこと」

AFの初期対応において、
心電図と同等に推奨されるのが
「BNP(B型ナトリウム利尿ペプチド)またはNT-proBNPの測定」です。

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BNPは「心臓への負担度」を数値化したもの

BNPは、心筋に負荷がかかった際に
多く分泌されるホルモンで、
心不全の診断や早期発見に役立つ
客観的マーカーです。

AF患者さんでは、頻脈や心房機能低下、
心房負荷などの影響で、
明らかな心不全がなくても
BNPが上昇することがあります。

そのため、BNP高値は
心不全を疑う手がかりになりますが、
AFだけでも上昇することがあるため、
症状、身体所見、胸部X線、
心エコーなどと合わせて総合的に解釈することが大切です。

BNPの結果で判断はどう変わる?

先ほどの72歳男性の採血で、
「BNP 250 pg/mL」だったと仮定します。

前述の通りAFだけでもBNPは上昇しますが、
BNP 250 pg/mLは高値であり、
心不全合併や心負荷の存在を積極的に疑う所見です。
日本心不全学会のステートメントでは、
BNP 35 pg/mL以上、または
NT-proBNP 125 pg/mL以上
心不全の可能性を考慮し、必要に応じて
循環器専門医への紹介を検討することが推奨されています。
特にBNP 200 pg/mL以上では、
高リスク心不全の可能性も念頭に置く必要があります。

参照元:一般社団法人日本心不全学会「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版」図2BNP/NT-proBNPを用いた心不全診断や循環器専門医への紹介基準のカットオフ値
 

専門医では、心エコーによる
左室収縮能・拡張能、左房拡大、
弁膜症の評価に加え、必要に応じて
虚血性心疾患や心筋症の検索が行われます。
また、心不全が疑われる場合には、
病態に応じて心保護薬
(SGLT2阻害薬、ACE阻害薬/ARB/ARNI、
β遮断薬、利尿薬、MRAなど)の
導入・調整が検討されます。

この紹介の意義は、単に
「AFを診てもらう」ことにとどまりません。
AFの背景にある弁膜症、虚血性心疾患、
心不全などを早期に拾い上げ、
心不全の発症・増悪や入院を予防することにあります。

BNPを測定することで、
「AFの発見」から
「隠れた心不全や構造的心疾患の評価」へ
と診療の視点を広げることができます。

専門医へどのように紹介する?「紹介状のポイント」

初期対応を終え、
カテーテルアブレーションの適応評価や、
心不全の精査・治療方針の決定のために
専門医(循環器内科)へご紹介いただくケースも多いと思います。
その際、診療情報提供書(紹介状)に
以下の情報が整理されていると、
診療連携がスムーズになります。

  • 紹介の目的を明確に
    「アブレーションの適応評価」「心不全精査」「抗凝固療法(DOAC)の導入相談」など、依頼したい内容を具体的に記載してください。
  • AF発見の経緯と症状
    「家庭用心電計での通知」なのか「健診での指摘」なのか。動悸や息切れなど自覚症状の有無や程度を記載します。
  • 12誘導心電図のコピー
    紹介状の文章だけでなく、波形のコピーを添付してください。心電図から得られる情報は非常に多く、専門医診療に有用です。。
  • 既往歴とCHADS2スコア
    高血圧、糖尿病などの基礎疾患を記載し、「CHADS2スコア〇点」と一言添えてあると、先生の臨床推論のプロセスが伝わり大変参考になります。
  • 直近の採血データ(特にBNP、腎機能)と内服薬
    心不全の評価に直結するBNP値、抗凝固薬の用量設定に必須の腎機能、現在内服中の薬剤情報などの添付をお願いします。

明日から使える3つのポイント

以上、「家庭心電計でAFが出た」という
患者さんが来院した際の
診療のポイントを解説しました。

本記事のポイントは以下3つです。

  1. 必要に応じて12誘導心電図で確定診断し、緊急性を判断する
  2. 「BNP」を測定し、隠れた心不全を見逃さない
  3. 専門医への紹介は「心電図波形」と「BNP・腎機能データ」を添えて

AF(心房細動)の診療は、

  • 脳梗塞予防
  • 症状改善
  • 併存疾患の管理(高血圧、糖尿病、心不全など)

の3本柱で成り立っています。
特にAF診療では、
「不整脈そのもの」だけでなく、
その背景にある心不全や構造的心疾患を
見逃さない視点が重要です。
かかりつけ医の先生方の
的確な初期対応が、
患者さんの健康寿命や予後を大きく左右します。
本記事が明日からの外来診療のヒントになれば幸いです。

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