
MRI(磁気共鳴画像法)は、
高度な画像診断能力により、
多くの診療科で利用されています。
近年の装置の小型化に伴い、
クリニックでの導入も増えてきました。
MRI検査は被ばくのリスクがなく
比較的安全とされていますが、
MRIの強力な磁場による吸着事故も報告されています。
そこで、この記事では、
MRI検査室での吸着事故の現状と
基本的な事故予防策、
実践的な対策をご紹介します。
MRI吸着事故の現状と与える影響
MRIの強力な磁場による吸着事故は、
患者さんやスタッフの安全に
重大な影響を及ぼす可能性があります。
最近の吸着事故の統計データに基づき、
事故が発生する主な原因と
その影響について詳しく解説します。
◆最近の吸着事故の統計データ
2025年4月の
一般社団法人日本画像医療システム工業会
(以降、JIRA)の報告によると、
吸着事故件数は、2011年をピークに
2021年まで減少傾向にありましたが、
現在では、一定の水準を維持しながら
増減を繰り返しています。
◆事故発生の主な原因
JIRAの統計データによると、
MRI吸着事故は、検査関係者によって
引き起こされていることが分かります(常時立入者要因)。
検査に関わるスタッフの
「慣れ」による油断や、
身に着ける医療用具などの小型化が
吸着事故の原因と考えられます。
以前までは、点滴台や酸素ボンベといった
大型の医療機器による事故が主流でしたが、
近年では傾向が変化しています。
現在、吸着事故の原因として最も多いのは
「その他(医療系)」に分類される物品です。
これには、ハサミ、聴診器、ペンライト、
スマートフォン、IDカードホルダーなど、
スタッフが身につけている
小型の医療用具や個人的な携行品が含まれます。
大型の機器は視覚的に注意しやすい一方、
ポケットに入れたままの小物や、
衣服に付着した磁性体は
無意識に持ち込まれやすく、
これらが吸着事故の新たな主因となっています。
もちろん、ストレッチャーや車イスなどの
大型機器による事故も
依然として発生しているため、
継続的な注意が必要です。
◆事故が及ぼす多大な影響
吸着事故発生時は、MRIの損壊や、
吸着物を外すためのクエンチ(緊急磁場除去)が必要です。
クエンチは、超伝導性の喪失と
液体ヘリウムの気化を伴い、
復旧には時間と高額な費用がかかります。
簡単な吸着事故では、磁場を徐々に下げる消磁場作業も可能です。
しかし、MRIメーカーの技術者が
必要な作業であり、
撮影ができない期間が発生します。
復旧費用のみならず、
患者さんの予約変更も必要となるため、
事故が及ぼす被害は甚大です。
吸着事故を予防するための基本原則
MRIの吸着事故を防ぐには、
以下の2つの基本原則が非常に重要です。
これらの基本原則を徹底して守ることで、
MRIの吸着事故を効果的に防止し、
患者さんと医療スタッフの安全を確保できます。
1.立ち入り制限と教育
MRI検査室への立ち入りは、
厳格に制限することが求められます。
入口には警告表示や看板を設置し、
非関係者の立ち入りを防ぐことが重要です。
さらに、MRI検査室に出入りする
全スタッフに対して、磁場の危険性や
磁性体を持ち込まないことの重要性を
伝える教育と訓練を徹底しましょう。
2.金属類の持ち込み禁止
言うまでもないことですが、
MRI検査室への金属類の持ち込みは禁止されています。
身につけている装飾品だけでなく、
車イスやストレッチャーなどの
大きな物や酸素ボンベのような重い物でも影響を受けます。
最近のMRIは、磁気シールドの性能が高く、
装置から離れた場所はあまり影響が出ず、
装置付近で急激に磁場が強くなります。
そのため、MRI検査室に入室する際は、
細心の注意が必要です。
実践的な予防策を紹介
MRI検査室での金属持ち込み防止には、
施設ごとにさまざまな対策があります。
ここでは、一般的な対策方法を紹介します。
これらの予防策を組み合わせることで、
MRI検査室での安全対策がより効果的になるでしょう。
1.磁性体の持ち込み防止とチェックリスト活用
患者さんの私物の持ち込みを防ぐため、
検査着への着替えを実施している施設は多いのではないでしょうか。
それに加え、更衣室の壁やロッカーの扉などに
『入室前チェックリスト』を掲示し、
着替えの際にセルフチェックを促すと良いでしょう。
また、ラミネート加工したリストで
スタッフと共に最終確認を行う運用や、
タブレットを活用して受付や待合室で
患者さん自身でタップしながらチェックする運用も効果的です。
チェックリストは、
日本画像医療システム工業会(JIRA)の
公式サイトでも配布されています。
2025年のチェックリスト改訂では、
体内植込み型デバイスや、
保温効果のあるインナーなどへの
注意喚起が強化されています。
最新のリストを活用し、
運用に組み込むことが重要です。
▼最新チェックリストはこちら ▼
JIRA「MR室入室前のチェックリスト(2025/12改訂)PDF」
2.視覚的対策
MRI室の特殊性を強調するため、
施設内のMRIに関係する物に対しての
カラーを決めておくと効果的です。
MRI室に持ち込みできる物品に、
カラーテープなどで目印をつけると、
視覚的な識別を容易にできます。
また、検査室の床や壁紙の配色も
そのカラーに合わせると、
注意喚起をより強化できます
3.専用ユニフォームの採用
MRI室を担当するスタッフは、
ポケットのないユニフォームを着用し、
衣服に隠れた金属類の持ち込みを防ぎます。
ユニフォームの色を、
上記で述べた視覚的対策と
同じカラーに合わせると、
他のスタッフへの注意喚起にもつながります。
4.強磁性体検知システムの導入
目視によるチェックには限界があるため、
近年ではシステムによる安全対策で
運用している施設もあります。
- 強磁性体検知器(FMD)の設置
MRI室の入り口にゲート型やポール型の検知器を設置し、磁性体を感知するとアラートを鳴らすシステムです。2024年以降、多くの施設で導入が進んでおり、目視で見落としがちなポケット内のハサミやスマホ、ヘアピンなどを入室前に検知するのに極めて有効です。 - ハンドヘルド型検知器
金属探知機に加え、磁性体のみに反応するハンディタイプの検知器を併用することで、ストレッチャーの内部や患者さんの着衣の奥にある危険物を特定できます。
まとめ
MRI検査室での吸着事故を予防するためには、
立ち入り制限と教育の徹底、
金属類の持ち込み禁止、
磁性体の持ち込み防止などの基本原則が重要です。
さらに、視覚的な要素と
物理的な制限を組み合わせることで、
施設に適した効果的な対策を講じることができます。
これらの基本的な原則を守ることで、
安全な医療環境を維持しましょう。
放射線技師 O.H





