
高齢者の外来でよく見られる
低ナトリウム血症(低Na血症)は、
軽度なものであれば、
まずは経過観察をすることが
多いのではないでしょうか。
しかしその背景には、副腎不全や
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
(SIADH)などの危険疾患、
薬剤性低Na血症、そして夏場の脱水が
潜んでいることがあります。
これは、高齢者に限った話ではなく、
利尿薬の服用や、大量に汗をかく方、
水を飲みすぎた方でも起こります。
今回は、こうした低Na血症の鑑別と
見逃さないための評価のポイントを解説します。
低Na血症とは
低Na血症は血清Na<135mEq/Lと定義され、
その重症度(Na値の低さ)と
発症速度(急性か慢性か)によって
危険度が大きく変わります。
たとえば同じ125mEq/Lでも、
数日で進んだ急性例と、
月単位でゆっくり進んだ慢性例とでは、
その後の対応が異なってきます。
低Na血症の鑑別ポイント4つ
低Na血症を認めた場合は、段階を追って考えていきます。
1、Na以外も要確認
最初に確かめたいのは、それが真の低Na血症かどうかです。
高血糖の状態である場合、
血糖が100mg/dL上がるごとに
Naが約1.6〜2.4mEq/L低下します。
そのため、補正値で読み直す必要があります。
<例>血糖400mg/dLの場合、Naは+5〜7mEq/L
マンニトールや高浸透圧造影剤でも
細胞外へ水が引き込まれ、
同様に低Naとなります(高張性)。
また、著明な高脂血症・高タンパク血症では
偽性低Naを疑い、血漿浸透圧を測定します。
浸透圧が低ければ、真の低張性低Na血症と診断できます。
2、脱水または溢水の有無
続いて確認したいのが体液量です。
皮膚ツルゴール低下や頻脈、
起立性低血圧などの症状がある脱水、
もしくは、浮腫や頸静脈怒張などの
症状がある溢水なのか、
あるいはどちらでもない正常体液量なのか
を見極めると、鑑別がスムーズです。
しかし、身体所見だけでは、
水分の過不足を見分けにくい例も少なくありません。
その場合は、尿検査などが判断を後押ししてくれます。
3、検査の実施
ここで差がつくのが尿検査です。
尿浸透圧と尿Naを同時に出すことで
鑑別の精度が上がります。
まず尿浸透圧が100mOsm/kg未満なら、
ADHの作用が抑えられた状態、
すなわち心因性多飲やビール多飲、
低栄養(溶質不足)を考えます。
100mOsm/kg超であれば
ADHが働いているため、
尿Naを評価します。
尿Na>30mEq/Lなら、
SIADH・利尿薬使用・副腎不全を、
尿Na<30mEq/Lなら、
嘔吐・下痢・発汗といった体外喪失や、
有効循環血漿量低下を伴う
溢水性病態を示唆します。
あわせて、薬剤歴と飲水頻度を問診し、
副腎(コルチゾール)と
甲状腺(TSH)も検査すると良いでしょう。
4、紹介タイミングと患者さんへの支援
以下の項目に当てはまる場合は、
緊急で入院可能な施設に紹介します。
- 血清Na120mEq/L未満
- 急性発症
- 意識障害
- けいれん
- 嘔吐 など
副腎不全や、悪性腫瘍を疑うSIADHは、
内分泌内科・該当する専門診療科へ紹介しましょう。
補正は24時間あたり
概ね8〜10mEq/L以内が目安で、
これを超える急速な補正は
浸透圧性脱髄症候群(ODS)を招きます。
慢性的な症状、低栄養、アルコール多飲、
低K血症など、ODSのリスクが高い場合、
補正管理を専門施設に委ねるのが安全です。
患者さんの支援においては、
「”水を飲めばよい”わけではない」と
一言添えると安心です。
汗をかく時期は、水やお茶だけでなく
塩分を含む経口補水液を併用することが大切です。
一度に大量を摂取するのではなく、
こまめに摂取することを患者さんに伝えます。
利尿薬を服用中の方には、
自己判断による水分摂取量の増加は
しないように伝えることも大切です。
頭痛・吐き気・ぼんやりする感じ
といったサインが出たら、
受診するよう伝えておくことで、
症状が増悪する前に診療できるでしょう。
見逃しやすい危険疾患と夏の脱水(熱中症)
低Na血症における危険疾患と
夏に注意したい脱水(熱中症)との関連を
症例を交えながら解説します。
- 副腎不全
倦怠感・食欲不振・低血圧など症状が非特異的で、見落とされやすい病態です。低Naに低血糖や高K血症を伴えば、原発性副腎不全をいっそう疑います。 - SIADH
正常体液量で尿浸透圧・尿Naが高いのが特徴です。ただし、背景に悪性腫瘍(小細胞肺癌など)や中枢・肺疾患、薬剤が潜むこともあり、体液量と尿Naや尿浸透圧の検査は、あくまで除外診断である点に注意します。 - 薬剤性
サイアザイド系利尿薬、SSRI、カルバマゼピンなどが代表的です。多剤併用の高齢者で頻度が高く、開始まもない時期がとりわけ危険です。 - 甲状腺機能低下症
一度はTSHを確認したい疾患です。 - 脱水(熱中症)
発汗でNaが失われたところへ水や麦茶だけを補給すると、Na濃度はさらに下がってしまいます。高齢者は口渇感が低下しやすく、そこに利尿薬が加わればハイリスクです。また、高齢者だけでなく、肉体労働や運動で大量に汗をかく方、心因性多飲のある方も、条件がそろえば同じ経過をたどります。
<症例1>
倦怠感と食欲低下で受診された70代の男性です。Na128mEq/Lで、当初は「加齢と夏バテ」として様子を見られていましたが、なかなか改善しませんでした。低血圧と軽い色素沈着に気づいて、早朝コルチゾールを測定したところ低値であり、副腎不全と判明しています。非特異的な症状の裏に隠れる、典型的な見落とし例といえます。
<症例2>
高血圧でサイアザイド系の利尿薬を開始した80代の女性では、数週間後の採血でNaが126mEq/Lまで下がっていました。ふらつきを訴えており、薬剤の中止と水分調整で改善しています。開始後まもない時期に再検しておくことが、こうした例を拾い上げる鍵になります。
<症例3>
炎天下の屋外作業のあと、頭痛と嘔気で受診された50代の男性です。高血圧でサイアザイドを服用中で、ご本人は「水分はしっかり摂っていた」とおっしゃっていましたが、その中身は水と麦茶ばかりでした。Naは127mEq/Lで脱水(熱中症)の症状がみられたため、塩分を含む水分と内服の調整。汗をかく時期の「水分だけ補給」が落とし穴になった一例です。
まとめ
すべての低Na血症が致命的なわけではありません。
しかし、軽度な症例こそ、
背景にある原因を精査することが大切です。
副腎不全・SIADH・薬剤性・甲状腺機能低下
といった危険疾患を鑑別し、
夏場はとくに脱水に注意します。
症状が出ている症例では
重症度や発症速度に注意し、
場合によっては、専門医へつなぐことを心がけたいものです。
執筆・監修医師
本多 洋介 (ほんだ ようすけ)
所属:Myクリニック 本多内科医院(神奈川県横浜市) 院長
資格:総合内科専門医、循環器内科専門医
2009年、群馬大学医学部卒。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院を経て、2024年6月より現職。共著書に『PCI㊙裏技テクニック』(メジカルビュー社)、『超音波ガイドEVT』(メジカルビュー社)など。




