
「そろそろ自分のクリニックを持ちたい」
「地域医療に貢献したい」
「こんな診療をしたい」
そんな思いを胸に、
開業を志す先生は少なくありません。
しかし、理想や使命感だけでは
クリニック経営を成功に導くことはできません。
クリニックを開業するということは、
「診療」と「経営」の両面を
考える必要があります。
特に開業時によく相談を受けるのが、
「事業計画書の作成」についてです。
開業に必要な費用、
資金調達に不可欠な計画の明示、
開業後に必要な患者数や収支予測、など。
事業計画は、開業の成否を大きく左右する
重要なポイントの1つです。
そこで本記事では、これから
クリニック開業を目指す先生に向けて、
事業計画の基本事項をわかりやすく解説します。
もくじ
なぜ、事業計画が必要なのか?
クリニック開業には、
数千万円〜1億円近い
初期投資がかかることもあります。
その資金を確保するには、
金融機関や関係者を納得させる
「数字による裏付け」が不可欠です。
近年は物価高騰の影響で、
建築費用や医療機器の価格も上昇傾向にあります。
どこにお金をかけ、どこを抑えるか、
その判断基準は先生ごとに異なります。
よくご相談いただく内容としては以下の通りです。
「診療に必要な医療機器は妥協できないから、他の費用を削減したい」
「何人の患者さんがいれば経営が成り立つのか」
「どれくらい手元にお金が残るのか」
これらを知るためにも、事業計画は必要です。
「診療技術に自信があれば自然と患者さんが集まる」
という考えだけでは、
今の時代の集患には対応できません。
都市部や駅近では
競合クリニックが密集しており、
患者さんの選択肢も豊富です。
一方、地方では人口減少や
スタッフ採用の難しさといった課題があります。
厚生労働省の調査によると、
全国の一般診療所数は約10万施設。
飽和状態に近い地域もあるため、
競合との差別化も事業計画において重要な要素です。
参照元:厚生労働省「医療施設動態調査(令和7年2月末概数)」
事業計画書が果たす3つの役割
事業計画が必要な理由を前述しましたので
ここでは、事業計画書の役割について解説します。
1. 先生のビジョンを「見える化」する
開業にあたって、
「どんなクリニックにしたいのか」
を明確に言語化しておくことで、
スタッフの採用・教育や、
患者さんへの説明にも一貫性が生まれます。
先生のビジョンが、スタッフや地域に思いが伝わる「設計図」となります。
2. 金融機関や専門家 (税理士・コンサルタント) との情報共有・相談に使う
開業には多額の資金が必要となるため、
融資を受ける際に計画の具体性が求められます。
事業計画書があれば、
税理士や開業支援者との打ち合わせが
スムーズに進み、金融機関にも説得力を持って説明できます。
3. 開業後の“軌道修正”にも役立つ指針となる
開業後、想定と現実がずれることは珍しくありません。
その際に、事業計画書に立ち返ることで、
何を見直し、どこを修正すべきかが明確になります。
事業計画書が経営の「原点」と言えます。
事業計画に必ず盛り込むべき5つの項目
夢のような事業計画書を作成しても、
クリニック経営が成り立ちません。
意味ある計画書にするために、
5つの項目が事業計画書に入っているか確認しましょう。
1. 開業コンセプト (診療方針とターゲット)
「どのような医療を、誰に提供するか?」を明確にします。
(例)
• 地域密着型の小児科クリニック
• 働く世代に対応した内科、生活習慣病クリニック
• 高齢者支援に注力する在宅医療専門クリニック
診療対象層の設定は、立地・診療時間・内装設計・スタッフ構成に大きく影響します。
2. 目標患者数と売上予測
初年度の目標は「希望的観測」ではなく、
「現実的かつ根拠ある数字」で立てましょう。
(例)
• 1日平均30人 × 診療単価7,000円 × 月25日稼働 = 月収525万円
• 2年目以降は口コミや広告効果で徐々に増加見込み
地域の人口動態や競合状況の分析も
忘れずに行うことが大切です。
3. 開業資金と資金調達計画
クリニックの開業には
多額の資金が必要となるため、
あらかじめ費用の見積もりと
資金調達の計画を立てておくことが重要です。
■開業にかかる費用の項目
開業費用には以下のような項目が含まれます。
• 物件取得費(保証金・敷金など)
• 内装、医療機器の設備費
• 広告宣伝費
• 運転資金(数ヶ月分の人件費、家賃など)
• 各種申請、手続き費用
物件や設備などの選定を始めてから
資金不足が判明する事態にならないよう、
それぞれにどれくらいの費用が必要か、
あらかじめ見積もる必要があります。
■資金調達方法
開業資金の調達方法には以下の手段があります。
• 自己資金
これまでの貯蓄・資産運用など、先生が準備した資金です。
借入額を抑えることで資金繰りのリスクを軽減できます。
また自己資金が多くあるほど、
金融機関からの信用度も高まります。
• 親族からの借入
両親や親戚などから支援を受けることがあります。
無利子や柔軟な返済条件での
借入が可能な場合もあり、
金融機関から借入額の負担を軽減できます。
ただし、借入の事実や金額は記録に残しておくことが重要です。
• 金融機関からの借入(日本政策金融公庫、民間銀行など)
多くの開業医が利用する主要な資金調達手段です。
日本政策金融公庫は開業支援に積極的です。
民間銀行では、事業計画の内容や
自己資金の割合によって
様々な条件がでるため、
どの銀行へ相談するかも重要です。
なお、金融機関からの借入を行う場合は、
ある程度の自己資金(通常は全体の1~2割程度)の準備が求められます。
■金融機関への提出書類
借入の審査を受けるためには、
以下の内容を事業計画書に追記する必要があります。
• 開業のコンセプト
• 開業にかかる費用の明細
• 開業後の収支シミュレーション(損益計画)
借入条件(金利・返済期間など)も
事前に金融機関としっかり調整しましょう。
4. コスト計画 (固定費と変動費)
コスト(費用)には「固定費」と「変動費」があります。
それぞれ正確に分けて把握し、
事業計画の段階から見積もることが重要です。
■固定費(毎月ほぼ一定額が発生する費用)
診療件数に関係なく発生する費用で、
開業初期から継続的に支払いが必要です。
赤字リスクの大きな要因となるため、
慎重な見積もりと抑制が重要です。
(主な例)
• 人件費 (医療事務、看護師、受付など)
• 家賃、リース料 (クリニック物件、医療機器など)
• 水道光熱費、通信費 (電気、ガス、水道、インターネット)
• 医療廃棄物処理費 (感染性廃棄物処理等)
• 保険、共済 (施設損害保険、賠償責任保険など)
• 広告、マーケティング費用 (チラシ、HP運用、リスティング広告)
備えが必要な費用
機器の突発的な故障や、
人材の急な入れ替えに対応するための
予備費も確保しておくと安心です。
■変動費(診療数に応じて増減する費用)
診療の件数や内容に比例して発生する費用です。
収益と連動するため、売上が増えれば自然と上昇します。
(主な例)
• 医療材料費 (注射針、試薬、ガーゼ、手袋などの消耗品)
• 処方箋発行時の用紙、封筒、ラベル代
• 自費診療に関連する資材費 (美容や健診に必要なキット等)
• 紙カルテや領収書発行にかかる消耗品費用 (電子カルテでも一部必要)
変動費は診療件数の増減と
連動して変わるため、
売上と一緒に定期的にモニタリングすることが大切です。
5. 運営体制 (スタッフ計画)
開業初期は「少数精鋭」でスタートするのが基本です。
(例)
• 医療事務2名(正社員1名+パート1名)
• 看護師1名(常勤)
業務範囲を明確にし、場合によっては兼務や外部委託も検討しましょう。
人件費がかさみすぎないよう、
慎重に計画を立てることが大切です。
よくある「甘い見積もり」の失敗例
• 想定より患者数が少なかった → 売上不足で資金繰りが悪化
• 採用に時間がかかった → 外注費や採用費がかさむ
• 設備工事に想定外の追加費用 → 自己資金、運転資金が不足
• 広告宣伝を軽視 → 開業初期の認知が進まず集患 かの出足 が鈍る
事業計画は少し厳しめに見積もるのが鉄則です。
まとめ
事業計画書は、単なる形式的な書類ではありません。
それは開業医としての不確実な未来を
「見える化」し、関係者と方向性を
共有するための経営の羅針盤です。
開業はゴールではなく、スタートラインです。
堅実な第一歩を踏み出すために、
先生のビジョンを明確にするために
本記事の内容をお役立てください。
執筆者
日本クレアス税理士法人
中川 義敬 税理士
(執行役員、近畿税理士会所属)
<経歴>
2007年 税理士登録
2009年 日本クレアス税理士法人 入社
2019年 同 大阪本部本部長 就任
東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等に従事。医院の新規開業支援、会計税務、医業承継・相続対策など、個人医院から大病院まで医療分野でのサポートに高い経験あり。




